抄録
【はじめに、目的】前十字靱帯(以下ACL)損傷はジャンプの着地や方向転換,急激な減速時に起こりやすいとされ,股浅屈曲,膝浅屈曲・外反の肢位での脛骨前方剪断力と回旋が原因と考えられている.その要素のひとつに,足部の回内・外反が考えられている.それに対して後足部過剰回内防止を目的としたインソール装着で女子バスケットボール選手のACL損傷率が減少したといった報告などがなされている.踵骨が外反し,足部内側縦アーチ低下,距骨下関節回内位となると,足根骨間の結束が緩む.この時に距骨の滑り込み不全による足関節背屈不全で膝浅屈曲・外反位となるのを,インソールは防いでいると考えられる.しかし,インソールとACL損傷率に関連する報告や健常者での分析は散見されるが,ACL再建術後患者を対象に,インソール装着効果の定量的な研究は見当たらない.よって,ACL再建術後患者におけるインソール装着が膝・股関節の運動学・運動力学に与える影響を矢状面から定量的に分析する事を目的に研究を行った.【方法】 対象はACL再建術後6ヶ月以上経過し,外来フォローのある1年以内で承諾が得られた者で,かつ主治医により実験参加の許可の得られた男女7名(男性3名で平均年齢35.3±6.7歳,女性4名で平均年齢27.4±11.1歳)とした.また,山形済生病院で走行動作を許可している患側の膝伸展筋力が%BW60%に満たないものは除外した.課題動作は落下垂直跳びで,測定には三次元動作解析装置(VICON MX T20),赤外線カメラ8台(250Hz)と床反力計2枚(Kistler社 2000Hz)を使用し,被験者にはPlug-In-Gait FullBodyモデルに沿って35個の反射マーカーを貼付した.動作方法は先行研究(Hewett et al.2005)を参考に30cm台の上で足部を35cm離した状態から,2枚の床反力計に左右別々に着地し,そこから両上肢を挙上して即座に最大ジャンプを行うこととした.課題動作は裸足,靴,靴と後足部過剰回内防止インソール(Superfeet社製 トリムブルー)の組み合わせの3条件で実施した.実験用の靴には足部マーカーの位置に穴を空けて加工した.データは一回目に床反力計に接地している期間を用い,床反力垂直成分が10Nを越えた時点を初期接地とし,COMの垂直成分が最も下行した時点までを解析対象とした.膝・股関節の運動学・運動力学的データは各3条件それぞれの患側下肢の3回平均のデータを採用した.そこから初期接地の時点の値,最高値,最低値を膝・股関節の矢状面について分析した.統計解析にはR2.8.1を使用し,反復測定分散分析を用いて条件間を比較し,post hocにはシェイファーの多重比較法を用いた.有意水準はp=0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の目的,方法,リスクなどを口頭および文書で説明し,未成年は保護者も含めて署名にて同意を得た.本研究は山形県立保健医療大学と済生会山形済生病院の倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】初期接地の時点における,膝屈曲角度については裸足で15.7±6.3度,靴で15.6±5.2度,靴とインソールで17.8±5.6度の値であり,平均値に差を認めたものの統計学的に有意ではなかった.その他,膝と股関節の屈伸角度と外的屈伸モーメントを初期接地の時点の値,最高値,最低値について分析を行ったが,裸足,靴,靴とインソールの3条件間にいずれの値も有意な差は認められなかった.【考察】インソールの装着は回内防止効果によって足根骨の骨結束を高め,距骨を遠位脛腓関節の間に滑り込みやすくすることが考えられる。それにより,初期接地時のインソールの条件で膝屈曲角度が2度以上増加したと考えられたが,統計学的有意差は認められなかった.この要因として本研究では対象者が7名と少なく,統計学的に保守的な結果となりやすい点が考えられ,今後対象人数を増やしての検討が必要であると考えられた.また,前額面や横断面の分析に加えて筋電図学的な検討も考慮していく必要が考えられる.【理学療法学研究としての意義】ACLの再損傷予防においては,神経筋コントロールが重要であり,インソールは挿入するだけでそれを改善できる可能性がある.実際のACL再建術後患者に対して,インソール挿入の効果を定量的に検討することは,根拠を持った適応の一助となると考えられる.