抄録
【はじめに、目的】膝前部痛の原因のひとつとして膝蓋骨の軌道異常が挙げられる。我々は、昨年度の理学療法学術大会においてサージカルテープを用いた膝蓋骨位置の評価の信頼性と無症候者のデータの傾向について検討した。本研究の目的は膝関節屈曲位における膝蓋骨位置と膝前部痛との関連性を調査し、膝蓋骨位置評価の有用性を検証することである。【方法】本研究の主旨を理解し同意が得られた54名106膝を対象とした。アンケートにより膝関節痛の有無と場所・既往歴を確認し、靭帯・半月板損傷や手術などの経験のある膝、感覚障害などの神経症状を有する膝を除外対象とした。背臥位にて以下の肢位で大腿骨両顆部間における膝蓋骨の位置を測定した。①股関節中間位・膝0度伸展位(KE)、②股関節45度屈曲・膝関節90度屈曲(FF)、③股関節中間位・膝関節90度屈曲位(KF)の3肢位でとした。測定はHerrington の方法を改変し行った。大腿骨内側上顆・膝蓋骨・大腿骨外側上顆が一直線上に通るようにサージカルテープを貼り、テープ上に各ランドマークに印をつけ両顆部最大隆起部と膝蓋骨までの距離を測定した。膝蓋骨内側縁から内側上顆の距離および外側縁から外側上顆の距離を計測し、二つの距離の差から両顆部間中央に対する膝蓋骨の位置を算出した。値は外側方向を(+)、内側方向を(-)と定義した。また膝蓋骨の位置に影響を与えると言われる大腿筋膜張筋-腸脛靭帯(TFL-ITB)の柔軟性をPivaらの方法に準じて測定した。オーバーテスト時の大腿の内転角度をレベルゴニオメーターで測定し、大腿が水平よりも内転位であれば(-)、外転位であれば(+)とした。疼痛の有無による統計的有意性を対応のないt-検定を用い検討した。さらにReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線、Youden Indexを用いて膝関節痛リスク指標としての膝蓋骨位置評価の判別精度を分析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学倫理委員会の承認を受けて施行した。対象者全員に対し研究の趣旨を説明し、書面による同意を得た。【結果】疼痛群は23膝(平均年齢46.4±19.9歳)、無症候群は79膝(平均年齢40.0±18.5歳)であった。疼痛群、無症候群いずれにおいてもFFにおける膝蓋骨位置がKE、KFにおける値よりも有意に外側に偏位していた (疼痛群;KE:7.1±8.4mm、FF:21.6±6.1 mm、KF:6.6±8.8、無症候群;KE:2.7±7.1mm、FF:14.8±7.6 mm、KF:4.2±6.0 )。疼痛群と無症候群の比較ではKE、FFにおいて疼痛群の膝蓋骨位置は無症候群よりも有意に外側に位置していた(KE:P<0.05、FF:P<0.01)。オーバーテストでは疼痛群で有意に外転位を示した(疼痛群:1.8±4.2度、無症候群:-0.4±3.6度、P<0.05)。次にROC曲線を用いて膝関節痛リスク指標としてのFFでの膝蓋骨位置評価の判別精度を分析した結果、曲線下面積0.752となり指標が有用であると示された。さらに膝蓋骨偏位距離のカットオフポイントをYouden Indexで算出すると19.5 mmとなった。【考察】本研究の結果、膝屈曲位における膝蓋骨の外側偏位と膝関節痛に有意な関連性が示唆された。さらに評価の有用性は確認されFFにおいて膝蓋骨外側偏位距離が19.5mm以上の場合に予防的なアプローチが必要と考えられた。本研究においてTFL-ITBの膝蓋骨位置への影響について検討するために、TFL-ITBがより伸長されるKFでの検討を行ったが、KFではむしろ膝蓋骨は外側に偏位せず疼痛との関連性は見られなかった。オーバーテストの結果は疼痛群において陽性を示しTFL-ITBの柔軟性が疼痛と関連していることを示唆しているが、これは膝蓋骨周囲組織の相対的な柔軟性が関与していると考えられる。すなわち膝屈曲位においてITB・外側膝蓋支帯・外側広筋は緊張が高まり、拮抗する内側膝蓋支帯・内側広筋の柔軟性がより高いため膝蓋骨は外側へ偏位する。さらにFFにおいて股関節屈筋であるTFLの緊張も膝蓋骨の外側偏位を強めていると考えられる。しかしKFでは大腿直筋が緊張することにより膝蓋骨が顆間溝にはまりこみ外側偏位が制限されたと考えられる。本評価法は検査者の触診技術に依存するため、さらに評価方法に検討を加えるとともに荷重時の評価を加えていく予定である。【理学療法学研究としての意義】本研究により膝屈曲位における膝蓋骨位置評価の有用性が示された。臨床的に簡便な検査で膝関節痛のリスクを早期から軽減させることは、今日大きな問題となっているロコモーティブシンドロームのひとつである膝関節痛の予防に大きく貢献できる可能性を有している。今後さらに簡便で汎用性のある測定方法を確立することによって高齢者の関節痛予防のみならずスポーツ障害予防に発展させることが期待できる。