抄録
【はじめに、目的】現在のリハビリテーションでは、廃用症候群の予防や入院期間の短縮を目的に早期離床が一般化され、脳卒中ガイドライン2009においても早期離床が推奨されている。しかし、脳卒中超急性期や頸動脈ステント留置後の症例では脳血流自動調節能に問題がある場合も少なくないため、早期離床時における血圧管理は特に重要である。今回、超急性期のリハビリテーション開始時における血圧変動の状況について調査し、運動負荷時の血圧管理の必要性を検討したので報告する。【方法】平成24年6月1日~9月30日までに当院脳神経外科・神経内科に入院した139例を対象とした。疾患は、脳卒中104例(脳出血24例、脳梗塞72例、出血性梗塞3例、くも膜下出血5例)、脳卒中以外35例である。主治医の血圧指示を順守した中で、これらの対象におけるリハビリテーション開始後の初回離床時または初回立位負荷、歩行負荷時における血圧変動を調査した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、病院倫理委員会の承諾と患者に十分な説明と同意を得た後に実施した。【結果】全対象の血圧変化を推測統計にて分析したところ、最大値30mmHg、最小値-34mmHg、平均値2.10mmHg、標準偏差(以下、SD)12.35mmHgであり、標準正規分布では約95%が平均値±2SDの範囲であった。この範囲を超えて血圧低下を示した症例は6例(4.3%)であり、その内訳は脳卒中が5例(脳出血2例・脳梗塞3例)、脳卒中以外が1例であった。脳卒中例では、一過性の血圧低下のみだった例が2例(ともに初回立位負荷時に30mmHgの血圧低下)、10日以上(12-24日)の臥床期間を有している例が3例(いずれも初回立位負荷時に30mmHgの血圧低下)となった。脳卒中以外の1例は、頚動脈ステント留置術後2病日目であった。逆に、血圧上昇を示した例は5例(3.6%)であり、その内訳は脳卒中2例(脳梗塞1例・脳出血1例)、脳卒中以外が3例(未破裂動脈瘤術後1例・パーキンソン病1例・慢性硬膜下血腫術後1例)であった。全ての症例が初回立位負荷時に30mmHg程度の血圧上昇を認めたが、いずれも血圧変動に伴う巣症状の出現は認めなかった。【考察】早期離床時において、血圧管理は重要なリスク管理のひとつと言われている。脳血流自動調整能の下限値は、加齢や高血圧症により上昇すると報告されており、脳梗塞患者の場合には血圧低下は症候増悪のリスクを伴う。また、逆に血圧上昇や再灌流に伴う急激な血流の増加は、出血性変化を惹起したり、既に生じている出血を増悪させたりする因子と考えられ、細心の注意を要する。本研究結果からは、推測統計上5%程度の症例で約30mmHg以上の血圧変動を生じることが判明した。これらの症例では、超急性期でのリハビリテーション開始に伴って血圧変動を来したことから、早期離床場面では心電図変化や投薬状況の変化、臥床期間を考慮した上で血圧管理を実施する必要性が示唆された。さらに、血圧低下例のうち半数が10日以上の臥床期間を有していることから、血圧変動の原因のひとつとして身体的deconditioningの関与が考えられた。そのため、離床に際しては少なくとも、弾性ストッキングや弾性包帯・腹帯を使用して離床を進めいていくことにより、末梢血管抵抗を上昇させることで血圧低下のリスクが軽減できると考えられた。そして、何より重要なこととしては、可能な範囲で血圧の低下を来さないためにも、低負荷であっても運動負荷を実施する必要性が挙げられる。また、急激な血圧の上昇に際しては、安静臥床を強いるのではなく、降圧剤などの併用による早期離床を医師と検討をしながら進めていく必要があると考えられた。本研究では対象となる血圧変動症例数が少なく、疾患や病態、既往歴などにも一定の傾向が認められたとは判断しがたいことから、今後も超急性期における早期離床時の血圧変動を調査していくことで血圧変動例の傾向を明らかにし、リスク管理と対策を検討していきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】早期離床に際して有意な血圧変動を来す症例は本研究では5%程度認められたが、血圧上昇または低下を来す症例をリハビリテーション施行前に特定するには至らなかった。そのため、超急性期におけるリハビリテーション実践場面では、本研究で示したような血圧変動が生じる可能性を念頭に置いた上で、可能な限り早期離床を図っていくことが重要と考えられた。