理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-09
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一般口述発表
MP関節のスティフネスの変化が立脚中期以降の下肢支持性にあたえる影響
久保 雅義
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抄録
【はじめに・目的】高齢者の転倒予防は理学療法の中でも大きなチャレンジの一つである。足趾把持力や足趾圧迫力は、高齢者の前足部機能の向上を目的としてしばしば運動療法の対象とされ、静的立位バランスやファンクショナルリーチ、さらにTime up and go testのような動的機能との関連が示唆され、さらに、転倒リスク軽減への貢献が議論されている。しかしながら、その貢献メカニズムについてはよく理解されていない。転倒の原因の一つには歩行立脚中期での遊脚足の「つまづき」があるが、「つまづき」から回復するためには、瞬間的に遊脚足を引き上げるとともに、立脚側はその変化に対応した力学的支持を提供しなければならない。そこで本研究では、足趾把持力や足趾圧迫力によってもたらされる立脚足のMP関節のスティフネスの変化が、立脚側の運動に影響があると仮説し、矢状面内歩行での立脚側関節運動および重心の軌跡に及ぼす影響をシュミレーションすることを目的とした。【方法】本研究で用いた数学的モデルでは、足部は前足部と後足部の2 つのセグメントからなり、前足部は地面に固定されている。前足部からは、後足部、下腿と大腿セグメントの順に バネ定数k1, k2 と k3 の3 つのねじりバネで連結されており、これらがそれぞれの関節トルクを発生する。身長160cm・体重65kgを設定し、各セグメント重量および長さは文献より計算にて求めた。足部・下肢以外の重量は全て大腿セグメント近位端に集中していると仮定し、重心位置とした。歩行速度は立脚中期の重心水平速度を3.6km/hとして設定した。モデルの運動方程式はニュートンオイラー法により記述され、その振る舞いはMATLAB (Mathworks, Natic MA USA)によりシミュレーションされた。初期ポジションは足を床面につけた状態で、足関節90deg、膝関節完全伸展位であり、重心の水平方向速度に対応する初期角速度が足関節と膝関節に与えられた。この初期条件下でそれぞれの関節のバネ定数k1,k2 とk3 を変化させ、解析区間[0 0.3]secでシミュレーションを行った。また、関節角度にオフセットを加えることで、関節モーメント発生のタイミングの操作とした。シミュレーションの結果観察された運動において、それぞれの関節角度の変化に加え、COMが到達する最高ポジションへの変位量、その位置に達するまでの時間が評価された。また全体の支持性は弾性楕円により評価された。【説明と同意】本研究は数学的シミュレーションであり、説明と同意の必要な対象者は含まれていない。【結果】1. MP関節のスティフネスの上昇は離踵のタイミングを遅らせ、膝関節には、膝伸展筋力に依存しない伸展モーメントを発生させ支持性を高める働きがあった。2. MP関節のスティフネスの低下は、離踵のタイミングを早めるが、足関節底屈モーメントの増加がない状態では、脛骨の前方回旋を増大させ、下肢の支持性を低下させた。3. COMをより高い位置に保つためには、a) MP関節での制動により離踵を伴わない方法とb)MP制動によらずに離踵・足関節底屈の方法のタイミングの異なる2 つのストラテジーがあった。【考察】本研究の結果から、立脚中期からのMP関節のスティフネスの変化は、力学的連鎖により近位関節の運動に影響を与え、さらに下肢の支持性を変化させることが示された。さらに、COMの振る舞いではスティッフネスの組み合わせにより空間的には数cm、時間的には10-100msecのオーダーで変化が起こることが示された。これらの変化は一見してサイズは小さいが、「つまづき」からの回復という観点からは重要な意味を持っている。第一に、関節スティフネスへの要求が0.3sec ほどの短時間に起こる必要があることである。つまづいた遊脚足を急速に引き上げる転倒回避動作は、立脚側には短時間で支持性を確保するため必要なスティフネスの組み合わせを実現する「協働的パワー」を要求することがわかる。第二に、スティフネスの変化によりもたらされる空間的に小さなCOG位置の変化も、立脚中期での遊脚足の床面とのクリアランスは2cm以下であることを考慮すると機能的には「転倒する・しない」をわける重要さを持っていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】転倒に関する研究は臨床的に非常に重要であるが、実際に被験者を用いて転倒状態を作り出すことが技術的にも倫理的にも困難である。今回用いた数学的モデルは単純化されたモデルであるが、転倒に対する理学療法的介入に必須な「筋の能力」や「協調運動」等の概念を表現するツールとして有用である。
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© 2013 日本理学療法士協会
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