理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-43
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ポスター発表
低速度での運動停止課題への加齢の影響について
高橋 優美笠原 敏史齊藤 展士寒川 美奈
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キーワード: 加齢, 運動制御, 足圧中心
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抄録

【はじめに】高齢者の転倒は骨折や打撲にとどまらず廃用症候群をも引き起こす重大な問題である。鈴川らの調査によると、要介護高齢者の施設利用時の転倒の直接的原因は躓き、踏み外し、接触や滑りの総数よりも立位でのバランス崩壊が多かったと報告している。一方、リハビリテーションを受ける患者や利用者も疾病による運動障害に加え加齢による転倒の危険性も加わる。したがって、加齢による姿勢制御の変化を明らかにすることは、転倒予防のため運動療法のバランス訓練作成の一助となる。姿勢応答への加齢の影響は運動開始について調べられているが、運動停止についての知見は乏しい。外乱刺激を用いて姿勢応答を調べたLinら研究では、高齢者は刺激を受けてから安定した姿勢に戻るまでに足圧中心(COP)の大きな動揺を示し、COPを安定させるまでの時間が延長したと報告した。歩行停止に関する研究では、転倒群は非転倒群に比べ歩行停止に要するステップ数の有意な増加を示していた。このように転倒と運動停止の遅れの関係が指摘されているが、日常生活を意識した随意的な立位バランスでの動作の停止に関する研究はみられない。以上のことから、本研究では加齢の随意運動の停止へに影響を明らかにするため、立位姿勢時のCOPの随意的運動停止課題に着目し、高齢者と若年者を比較検討した。【方法】健常若年者14 名(平均年齢20.7 歳、身長172.0cm、体重60.0kg)、健康高齢者23 名(69.6 歳、164.1cm、体重 62.8kg)を対象とした。いずれも過去1 年間に整形外科疾患、中枢神経疾患、眼疾患等のバランス障害を引き起こす疾患の既往はなかった。被検者は目の高さに置かれたディスプレイを見ながら、裸足で床反力計上に両脚で立つ。画面を上方に動く目標とCOPを示すマークを同時に写し出し、目標にCOPを一致するように指示された。目標の動きは目標振幅(=最大前方移動量)は50 mm、周波数0.25 Hzのランプ状の離散運動課題とした。各課題10 周期以上繰り返し行わせ、LabViewにて記録、処理した。COPの座標データは10Hzのローパスフィルタにて平滑化した。Matlabを用いて目標の位置と被検者のCOPの軌跡のデータを微分した速度波形から各被験者の7 〜10 周期分の平均値を求め、以下の項目について高齢者と若年者を比較した:運動反応時間を目標の運動開始(T0)とCOPの運動開始(T1)との差とし、COPの運動開始は安静立位時の平均± 2 ×標準偏差(2SD)を超えた点とした;運動準備時間はT1 からCOP後方最大速度(T2)までの時間とした;推進時間はT2 からCOP前方最大速度(T4)とした;制動時間はT4 からCOP停止(T5)までとし、COP停止は安静立位時300 msecの平均± 2SD内を500 msec以上続く最初の点とした。総運動時間をT1 からT5 までとした。統計解析はSPSS を用いて有意水準0.05 以下とした。【説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており(承認番号08-3)、被検者に書面をもって十分な説明を行い、同意を得た者が実験に参加した。【結果】COPの前方及び後方の最高速度に年齢差を認めなかった。反応時間は若年群224.1 ± 93.1 msec、高齢群314.2 ± 56.0 msec、高齢群で有意に遅れていた。運動準備時間は若年群290.4 ± 83.7 msec、高齢群261.5 ± 66.4 msecで有意差をみなかった。推進時間は若年群564.0 ± 164.7 msec、高齢群451.3 ± 110.0 msec、若年群は有意に延長していた。制動時間は若年群2179.5 ± 653.0 msec、高齢群1787.9 ± 507.3 msec、若年群で有意に延長していた。総運動時間は若年群3033.9 ± 713.7 msec、高齢群2474.7 ± 494.1 msec、若年群で有意に延長していた。【考察】高齢群の反応時間はこれまでの報告と同じく若年者に比べて遅延していた。本研究では高齢群の推進時間や制動時間の延長を予想したが、結果は反していた。この結果に対する可能性のある説明として、加齢と運動速度(本研究では周波数)と関係があげられる。Fittsによると運動の正確さは運動速度の増加とともに低下し、この関係は運動速度と正確さのトレードオフと呼ばれる。前々回の本大会で我々の研究グループは運動の正確さは必ずしも運動速度と線形関係を持たず、より低い速度域でも運動の正確さが低下し、U字型の曲線関係を持つことを発見した。そして、課題や被験者の特性によって運動パフォーマンスを最大限に引き出す速度域があることを報告した。このことから、本研究での運動周波数0.25Hzは若年群に比べて高齢群とってより適した周波数であったのかもしれない。今後、更なる研究が様々な周波数や被験者で検証する必要がある。【理学療法としての意義】高齢化する患者の理学療法において加齢に伴う機能低下を考慮する必要がある。本研究により、高齢者の低速度での運動パフォーマンスが向上することから、安全な運動速度での動作の遂行が奨励される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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