抄録
【目的】パーキンソン病(以下PD)患者は健常者と比較して転倒の危険性が非常に高く姿勢制御能力が低下している。近年,姿勢制御能力として足趾把持力が注目されており,健常成人を対象とした先行研究では,片脚立位での前後方向の安定性や前傾姿勢との関連性が報告されている。PD患者においても転倒危険性と足趾把持力低下の関連性は報告されているが,運動症状の左右差に関しては臨床場面において十分に着目されていないのが現状であり先行研究は少ない。そこで今回,PD患者の疾患発症側を「劣位側」,反対側を「優位側」と設定し,PD患者の足趾把持力の左右差を比較検討した。さらにPDの進行に伴う姿勢変化として「体幹前傾角度」を測定し,足趾把持力(左右平均値・劣位側・優位側),体幹前傾角度,重症度,罹病期間,年齢の関連を検討することを目的とした。【方法】当院を受診しPDと診断された42名(男性18名,女性24名,72.3±7.7歳,ヤール重症度分類における分類は,1が7名,2が8名,3が21名,4が6名で罹病期間は確定診断を受けて平均6年経過,疾患劣位側は左側15名,右側27名)。測定項目は,足趾把持力,体幹前傾角度とした。足趾把持力は,足趾把持力計(竹井機器,足趾筋力測定器)を用いて評価した。足趾把持力は左右2回ずつ測定し,各側の最大値を足趾把持力(kg)とした。体幹前傾角度は,対象者の肩峰,大転子にランドマークをとり,スマートフォンカメラ(SAMSUNG社製)を用いて矢状面の静止立位を撮影した。角度算出には「可動域Camera」(RYOBI SYSTEMS社製 Android用アプリケーション)を用い,肩峰,大転子を結ぶ線と床面からの垂線との交点からなす角度を算出し,体幹の前傾角度(°)とした。統計学的分析方法は,劣位側と優位側から得られた足趾把持力の比較に対してWilcoxon符号付順位検定を用いた。また,足趾把持力(左右平均値・劣位側・優位側),体幹前傾角度,重症度,罹病期間,年齢との関連についてSpearmanの順位相関を求めて検討した。なお統計解析にはSPSS19.0を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,すべての対象者に対して本研究の主旨と内容を説明し,同意を得て測定を開始した。【結果】PD患者の足趾把持力は,優位側と比較して劣位側の足趾把持力が有意に低い値を示した。(p<0.01)足趾把持力(左右平均値・劣位側・優位側),体幹前傾角度,重症度,罹病期間,年齢との関連について,左右平均値及び劣位側と有意な相関が認められたのは,体幹前傾角度(p<0.05),重症度(p<0.01),年齢(p<0.05)であった。優位側の足趾把持力と有意な相関が認められたのは,重症度(p<0.01),年齢(p<0.01)であった。体幹前傾角度と有意な相関が認められたのは,左右平均値及び劣位側(p<0.05),重症度(p<0.01),罹病期間(p<0.05)で年齢,優位側の足趾把持力には有意な相関は認められなかった。【考察】今回,PD患者の足趾把持力を劣位側,優位側に分け比較検討を行った。また体幹前傾角度,重症度,罹病期間,年齢との関連を検討した。結果,劣位側の足趾把持力は,優位側と比べて有意に低い値がみられ,PDの足趾把持力には左右差が生じていることが示された。健常成人と高齢者における足趾把持機能を比較した先行研究においては,健常成人・高齢者ともに下肢機能に左右差は認められないと報告されており,劣位側は疾患による影響をより受けている可能性があると考えられる。また重症度が軽度の段階から足趾把持力には差が生じており,早期から劣位側の足趾把持力低下予防を図る必要がある。諸因子との関連については,「左右平均値,劣位側」の足趾把持力と「体幹前傾角度,重症度,年齢」において相関が認められた。しかし優位側の足趾把持力と有意な相関が認められたのは「重症度,年齢」であった。この結果より疾患の進行及び加齢に伴って足趾把持力は低下するが,「体幹前傾」といった姿勢変化は,劣位側の足趾把持力低下の影響をより受けている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,PD患者における足趾把持力低下(左右差)が姿勢変化に及ぼす影響を検討した報告である。結果からPDの足趾把持力には左右差が生じており,特に発症側の低下がより姿勢変化に影響している可能性が示された。PD患者の姿勢変化を捉えていく評価手段としても本研究の意義は大きいと考える。