抄録
【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下、ACL)損傷に対して行われるACL再建術は、スポーツ復帰を目的として行われる場合が多い。ACL再建術後(以下、術後)患者のスポーツ現場への復帰基準としては、疼痛、関節可動域、膝筋力、動作能力などが重要視されている。そこで当院では術後の円滑なスポーツ復帰を目的として、術前とスポーツ復帰が許可される術後10か月の前段階である術後4か月、6か月時点における疼痛、関節可動域、膝筋力を評価し、今後の理学療法の指針について検討したので報告する。【方法】 当院にて2011年12月~2012年3月までに半腱様筋腱を移植腱として使用したACL再建術が施行され術後6か月までフォローアップが可能であった症例を対象とした。除外基準はスポーツ復帰目的でない症例、両側ACL断裂例、再々建術例とした。評価として、疼痛をVASにて、膝関節可動域をゴニオメータにて測定した。また、60°/sec、180°/secでの等速性膝伸展・屈曲筋力を等速性筋力測定装置(BIODEX社製、BIODEX System3)を用いて、最大トルク体重比(患側、健側)、健患比を指標として算出した。評価は術前、術後4か月、6か月時点で測定した。VASと最大トルク体重比の相関をスピアマンの順位相関を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会により承認された。対象者には本研究の目的および趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 上記期間中に処方が出た術後患者は23例でそのうち除外基準に該当せず、術後6か月までフォローアップ可能であった症例は8例(男性3名、女性5名、平均30.5±11.8歳)であった。そのうち半月板損傷合併例は5例であった。各測定項目を術前、術後4か月、6か月の順で示すと、VASは35.0±31.9mm、18.4±28.3mm、12.4±17.7mm、膝関節可動域は伸展0°、-0.6±1.8°、-1.9±2.6°、屈曲148.1±5.3°、150.6±5.6°、151.9±5.9°、最大トルク体重比は60°/secの伸展が患側188.5±54.2%、179.9±60.4%、175.4±49.6%、健側249.0±37.4%、258.5±43.3%、272.6±46.0%、屈曲が患側88.7±22.9%、86.3±32.7%、96.9±27.9%、健側111.7±37.8%、100.2±21.2%、114.2±18.5%、180°/secの伸展が患側137.6±38.2%、127.5±36.82%、126.8±26.4%、健側166.2±27.6%、168.6±43.3%、179.8±27.4%、屈曲が患側77.5±20.1%、70.0±21.9%、78.9±19.5%、健側92.0±21.0%、79.5±21.6%、87.8±12.7%であった。健患比は60°/secの伸展が75.4±16.9%、68.5±18.0%、64.9±18.7%、屈曲が89.0±37.6%、83.5±20.0%、84.2±17.6%、180°/secの伸展が82.8±17.5%、76.6±17.9%、71.1±14.5%、屈曲が87.8±30.6%、89.4±20.1%、89.2±14.1%であった。VASと最大トルク体重比はどの時期においても有意な相関関係は認められなかった。【考察】 今回の結果を先行研究と比較すると、疼痛は先行研究と同様に経時的に減少する傾向にあった。筋力は先行研究と比し患側の伸展がやや低下している傾向にあることから、術後4か月以降の患側伸展筋力の回復の遅延が考えられた。その他の筋力については先行研究の状況と同様であった。また、VASと筋力との間で有意な相関関係が認められなかったことから、必ずしも疼痛が筋力低下の原因とは限らないと考えられた。可動域に関しては術後4か月と6か月で比べた場合大きな変化が認められなかった。これらの結果から当院における術後患者の退院後の関節可動域練習と筋力トレーニングが理学療法場面と自主トレーニングの両方において不十分であった可能性があると考えられた。さらに今回半月板損傷合併例が複数含まれていたことが、筋力回復に影響した可能性も考えられる。以上より、術後10か月以降の円滑なスポーツ復帰を実現するためには、退院後の関節可動域練習と筋力トレーニングをより積極的に実施していくとともに、競技特性を考慮した動作能力のトレーニングとその経時的な評価を実施していくことが課題であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 ACL再建術後患者の継続的な機能状態の調査を含めた退院後のフォローアップ体制のあり方を実際の評価結果を指標として具体的に検討していくことが、円滑なスポーツ復帰を促すための重要な取り組みになると考えられる。