抄録
【はじめに、目的】咳嗽のメカニズムは4相に分かれており、第1相は咳の誘発、第2相は深い吸気の後、一瞬声門を閉じ、第3相で胸腔内圧を上げ、第4相では、早い呼気いわゆる爆発的呼気流速が生じるとされている。第3相~4相にかけては、呼気筋活動を必要とし、我々も本大会において表面筋電図を用いた咳嗽時の呼気筋活動について報告してきた。しかし、先行研究では筋活動による解析がほとんどであり、近年広く行われるようになった超音波画像診断装置による腹横筋を含めた腹筋群の動態を報告した研究は少ない。さらに咳嗽時における腹筋群の肥厚についての報告は皆無である。そこで、今回咳嗽時における外腹斜筋と内腹斜筋および腹横筋の筋厚について検討することを目的とした。【方法】対象は本研究の目的や方法等につき十分に説明し、承諾の得られた喫煙歴のない健常成人男性9名(年齢20.2±1.1歳、身長175.2±5.1cm、体重65.6±6.2Kg)とした。また呼吸・循環器に既往のあるものは除外した。測定装置としてFUJIFILM 超音波画像診断装置 FAZONE CBを使用した。測定姿勢は背臥位とし、測定部位は先行研究を参考にし、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の 上前腸骨棘側 1/3 点を通り、床と平行な直線上で、肋骨下 縁と腸骨稜間の中点とした。尚、測定は一人の理学療法士が実施した。測定項目は、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋とし安静呼気時および咳嗽時の超音波画像10秒間を3回測定した。画像解析にはOsirixを用いて、安静呼気時および咳嗽時の最大筋肥厚時の静止画像を抽出し筋厚を1mm単位で測定した。そして、3回計測時の筋厚から平均値を算出した。統計学的処理として、安静呼気時と咳嗽時の最大筋厚を対応のあるt検定にて比較し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者全員に対して、口頭および書面にて研究内容を説明し、同意を得た。また、本研究は当大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】内腹斜筋および腹横筋においては有意に安静呼気時と比べて咳嗽時に筋厚増大を認めた(p<0.05)が、外腹斜筋の筋厚には有意な差を認めなかった。【考察】腹筋群は主に呼気筋として働き、咳嗽における3~4相においては、腹壁は内部に引き込まれ腹圧が上昇し,横隔膜を下から圧迫して胸腔内圧を上昇させるとしている。今回の結果から外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋は同じ呼気筋と分類されていても,咳嗽において働き方が異なるものと思われた。先行研究から炭酸ガス(CO2)刺激により換気を増大させた際に,最も活動したのは腹横筋であり、次に内外腹斜筋であるとしている。さらに針筋電において抵抗負荷時には、外前側腹壁を形成する腹筋の中で、腹横筋が選択的に呼息時に活動すると報告されている。これらの報告は、抵抗負荷時の呼気筋活動はより深部の筋が選択的に活動しやすいことを示唆している。今回の結果は咳嗽時もこれらの報告と同様に、腹筋群でもより深層筋の影響が大きいものと思われた。【理学療法学研究としての意義】咳嗽時の筋活動においては、表面筋電図による検討がされてきたが、深部筋についての検討はされていなかった。今回、超音波診断装置を用いて腹斜筋群および腹横筋の筋厚を測定し、咳嗽時には腹筋群でもより深部筋の筋厚増大を認めることを確認した。超音波画像診断装置による評価は、筋収縮の様子をリアルタイムに確認することができ、今後呼吸理学療法分野においても有効的な活用が期待できる。本研究は健常成人におけるデータであり、今後患者様との比較検討において有用なデータになると思われる。