理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-01
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一般口述発表
栄養学的因子が大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に及ぼす影響
MNA-SFとサルコペニアの検討
澤田 篤史本間 久嗣西谷 淳中村 宅雄目良 紳介
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抄録

【はじめに、目的】「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改定第2版」で、年齢、受傷前歩行能力、認知症、骨折型などが大腿骨近位部骨折患者の予後における影響因子として報告されている。また、ガイドラインでは周術期の栄養介入によってリハビリテーション期間の短縮が期待できると報告されているが、術後の栄養評価に基づいて自宅退院について検討した報告は少ない。我々は、2012年に高齢者を対象にした簡易栄養状態評価表(以下:MNA-SF)を用いて、術後2週時のMNA-SFが、大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰を予測するのに有効である可能性を報告した。また、栄養障害に伴って進行するサルコペニアについて、真田らはBMIなどから骨格筋指数(以下:SMI)を推定し、サルコペニアを評価する方法を報告している。我々は、この評価法を基に、サルコペニアがある大腿骨近位部骨折患者はサルコペニアがない者と比べ、自宅復帰率が約50%であることを報告した。したがって、栄養学的因子やサルコペニアが大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に影響を及ぼしている可能性あるが、これまでの因子と比べ、栄養学的因子が大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰に関する及ぼす影響度は未だ明確ではない。そこで本研究の目的は、大腿骨近位部骨折患者において、栄養学的因子を加えた種々の因子と自宅退院との関連を検討することである。【方法】2010年12月から2012年3月までに当院にて大腿骨近位部骨折にて手術を受けた85名の入院患者のうち、死亡・急性増悪例、受傷前歩行不能例、および他施設からの入院例を除く63例を調査対象とし、退院時の転帰先から自宅群と施設群に分類した。自宅群は45例(男性10例・女性35例、平均年齢75歳)で頚部骨折20例・転子部骨折25例、施設群は18例(男性2例・女性16例、平均年齢83歳)で頚部骨折4名・転子部骨折14名だった。調査項目は、術前項目として年齢、性別、骨折型、術前待機日数、入院時Alb値、BMI、SMIを、術後項目として術後2週のMNA-SF、FIM、健側大腿四頭筋等尺性筋力、健側大腿周径を後方視的に調査した。この調査項目に対し、数値項目はt検定とMann-WhitneyのU検定を、カテゴリー項目は分割表検定を用いて、自宅群と施設群の2群間比較を行った。単変量解析にて有意差が認められた項目のうち、説明変数間の相関関係を認めなった項目を説明変数、転帰先を目的変数としてステップワイズ法による判別分析を行い、各説明変数の順位付けを行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認の下、患者に対し書面による説明と同意を得た上で実施した。【結果】調査項目のうち、2群間比較にて有意差を認めた項目は、年齢、入院時Alb値、SMI、MNA-SF、FIM、大腿四頭筋筋力、大腿周径であった。そのうち、筋力と周径には強い相関関係を認めたため、周径を項目から除外し、残りの5項目について判別分析を行った結果、FIMとMNA-SFが自宅退院を判別するのに重要な因子であった(それぞれp<0.01、p<0.01)。また、その際の2群の判別精度は80%だった。【考察】栄養学的因子について、古庄らは栄養摂取量と術後4週のAlb値が大腿骨近位部骨折患者の歩行再獲得に影響する一因子である可能性を示した。また、濱田らは、術後早期の運動能力が自宅退院に影響している可能性を報告している。本研究では、栄養学的因子として入院時Alb値、SMI、MNA-SFが自宅退院に関する2群間比較において有意な差を示した。判別分析の結果から、術後2週のFIMとMNA-SFが自宅退院を予測する最も重要な因子であることが明らかとなった。MNA-SFは食事摂取量やBMIなどの栄養状態の評価に歩行能力や認知精神機能評価を加えた総合的な評価法であり、大腿骨近位骨折患者の機能的予後に影響を及ぼす因子を多く含んでいる。つまり、術後2週のMNA-SFは、大腿骨近位部骨折患者の包括的評価尺度として予後予測に活用できると思われる。一方、SMIは2群間比較では有意差を認めたものの判別分析での重要度は低かった。今回はBMIからSMIを推定したが、施設群にはBMI18.5以下のやせ型が多かったが、一方でBMI30前後の高度肥満例もおり、2極化している傾向があった。そのことがSMIでの判別精度の低下を招いたかもしれない。【理学療法学研究としての意義】近年、栄養状態を含めた全身状態を評価し、リハビリテーションと栄養管理を同時に行うリハビリテーション栄養の考え方が急速に普及し、栄養障害やサルコペニアがリハビリテーション効果に影響することが報告されている。一方で、栄養状態の視点から大腿骨近位部骨折患者の予後を検討した報告は少なく、未だエビデンスが不十分である。本研究は、簡易栄養状態評価表であるMNA-SFが大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰を判別する上で重要な因子であることを示した点で理学療法学研究としての意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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