抄録
【はじめに、目的】 中国にリハビリテーション(以下リハ)医療や概念が導入され、約30年である。中国政府(衛生部)は1996年に「総合病院リハビリテーション医療管理に関する規定」により、2•3級の病院(病床数により1級100床未満、2級500床未満、3級500床以上)にリハ科を設置することを決めた。しかし、衛生部の規定を十分に満たしていない状況が報告されている。内モンゴル自治区は中国北部にあり、2010年の人口調査によると内モンゴル自治区の人口は2471万人、65歳以上人口の割合は7.56%を占め、10年前より2.21%増加することによって高齢化社会に突入してきた。近年、内モンゴル自治区も自然エネルギーなどの開発により経済は急速に成長していると共にリハ医療に対するニーズも増大していると考えられる。本研究の目的は中国内モンゴル自治区のリハ医療の状況を調査し、この地域の現状と課題を明らかにする。そして、日本のリハ関係者にその状況を知らせ、課題の解決への糸口とする。【方法】 1. 対象 内モンゴル自治区の広さ、調査時間、研究費など客観的な要素を考慮して、本調査の対象地域を一つの市とすることにした。予備調査の結果を参考し、調査対象が内モンゴル自治区の政治、文化、経済の中心であり、内モンゴル自治区内の各市における人口一人当たり収入などが中間位である省都フフホト市を選んだ。大学付属、省、市、区、県、旗などの2級以上病院のリハ科12か所を対象とした。市街地の7か所(3級病院5か所、2級病院2か所)と県の5か所(2級病院5か所)である。中国の行政区分は省(自治区、直轄市)、市、県(区、旗)、郷の順に小さくなる。2.方法 調査方法は、直接各病院のリハ科を2012年8月に訪問し、科の責任者もしくは代行者に調査表による面接調査を行った。調査内容は、研修経験、リハ科職員数、施療者は対象患者がリハをどの位理解していると考えているか、医療保険、対象疾患、リハ学会等の研修機会の参加状況などである。3. 解析方法 調査項目の単純集計および病床数や設置地域別のクロス集計とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当施設の倫理委員会で承認された。また、事前に当該病院のリハ科の責任者に研究目的を口頭で説明し同意を得た。【結果】 訪問した12病院中の5病院のリハ医やリハ治療師は北京リハセンターの研修を受けたことがあり、1病院のリハ治療師は省立病院での研修を受け、西洋的なリハを実施し、その中に中医学と西洋リハが混合しているのは2病院であった。リハ科職員の構成は、中医学の医師、看護師が中心の6病院、西洋医学のリハ医とリハ治療師、看護師で構成される6病院に分けられた。西洋的なリハ科を設置していた6病院中5病院は市街地に位置し、1病院は県立病院であった。また、この6病院中4病院は3級病院であった。西洋的なリハ科を設置していた6病院中の5病院から施療者はリハ対象患者がリハ治療をおおよそ理解しているとの回答を得た。リハ治療費が医療保険でカバーされているのは1病院であった。対象疾患は主に脳卒中、骨折、筋骨格系疾患などであるが、1病院は骨折、脊髄損傷を専門としていた。学会については、内モンゴル自治区では1年に1回リハ学会が開催され、今回対象とした病院では、市街地の西洋的なリハを実施している5病院が参加していた。【考察】 西洋的なリハを実施している6病院中5病院のリハ医やリハ治療師は北京リハセンターの研修を受けたことがあり、西洋的なリハを実施していた。北京リハセンターでの研修経験は内モンゴルの西洋的リハ医療の導入という点で大きな影響を与えていると考えられる。リハ科職員の構成から見ると医師と看護師が多く、リハ治療師が少なく、リハ治療師の養成が課題になると考えられる。西洋的なリハを実施している施設の病院の病床数と設置地域から2級病院より3級病院、県より市街地にある施設は西洋的リハ医療がよく整備され、設置主体の経済状況が影響していると考えられた。対象疾患は、中医学中心のリハ科は筋骨格系の疼痛や骨折、西洋医学中心のリハ科では脳卒中、骨折等の骨関節疾患という傾向であった。経済発展が内モンゴルより進んでいる天津市のリハ医療調査ではリハ科設置不足やリハ治療師の人数不足が報告されているが、フフホト市の方がより厳しい状況となっている。【理学療法学研究としての意義】 内モンゴル自治区ではリハ医療の発展が重要になってきていると共に日本など先進国との学術情報交換が更に増進する必要がある。今回、中国内モンゴルのリハ医療の現状を把握することが一つのきっかけになると考えられる。