抄録
【はじめに、目的】軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)とは記銘力障害はあるが、他の認知機能は概ね正常でありながら、日常生活に支障をきたしていない状態である。MCIを有する高齢者はアルツハイマー病を発症する可能性が高いことが報告されており、認知症に進行しうる前駆的状態と考えられている。近年、MCIを有する高齢者を対象とした研究によると、認知機能と身体的活動および精神的活動が正の関係にあることや、社会との関わり(social engagement)が認知症抑制に作用することが報告された。高齢者の認知症予防や自立した生活を支え続けるためには、MCIを有する認知症発症の危険性が高い高齢者に対する積極的な認知症予防対策が必要となる。それを達成するためには、身体、精神、社会的活動状況を正確に把握し、低下した活動を向上するための支援を行う必要があろう。身体活動や精神活動の促進に関しては多くの報告がなされ、具体的な取り組み方や効果が明らかにされてきたが、社会活動に関しての知見は限られている。そこで、本研究では、高齢者を対象とした大規模研究データを用い、日常生活活動のうち社会活動に着目し、それらの活動実施状況とMCIとの関連を横断的に検討することを目的とした。【方法】2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly (OSHPE) に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち、生活自立の状態にある高齢者を抽出するため介護認定状況等により対象者を除外し、軽度以上の認知機能低下を認めた高齢者を除いた3,673名を対象とし、MCIと認知的に健常な高齢者に分類した。MCIの判定はPetersonらの基準に基づき、各種認知機能評価の結果から判定を行った。本研究での社会活動は、「家外で行う活動」と操作的定義し、先行研究や橋本ら(1997)の社会活動指標の領域を参考とし、測定項目を作成した。趣味・スポーツ活動、公民館での行事・催しものに参加、ボランティア活動の経験等の7項目であり、「はい」「いいえ」の2件法で質問した。その他の変数として、社会的ネットワークに関しては、友人の家の訪問、電話をかける友人の有無で質問した。家族構成については、一人暮らし、二人暮らし、その他と分けた。その他、教育年数、性、年齢、教育年数、共存罹患を用いた。分析はMCIの有無における測定値の比較をt 検定およびχ²検定を用いて実施した。多変量解析は、MCIの有無を目的変数とし、社会活動、社会的ネットワーク、家族構成等を独立変数として投入したロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準はp < 0.05に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は独立行政法人国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得た後に実施し、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、対象者から書面にて同意を得た。【結果】本研究の対象者のうち、MCI高齢者は938名(25.5%)であった。MCIの有無による比較では、健常高齢者の男性の割合は47.5%、MCI高齢者の男性の割合は48.1%であり有意な差はみられなかった。健常高齢者の平均年齢は71.3歳、MCI高齢者は72.0歳であり、MCI高齢者が有意に高齢であった(p<0.001)。ロジスティック回帰分析の結果、MCI高齢者は男性で(オッズ比(OR)=1.3, p=0.003)、共存罹患(OR=1.1, p=0.021)、家族構成(OR=1.2, p=0.011)、教育年数(OR=0.8, p<0.001)との関連が見られた。また、友人宅への訪問(OR=0.7, p=0.015)、趣味やスポーツ活動の実施(OR=0.8, p=0.028)、まとめ役の仕事(OR=0.8, p=0.026)がMCIと有意に関連し、それらの活動を実施していなかった高齢者は、MCIに陥る可能性が高いことが示された。【考察】各種社会活動の実施とMCIとの関係が認められ、認知症予防対策として社会活動の推奨が有益であるかもしれない。とくに友人との交流、趣味やスポーツ活動、幹事などまとめ役の仕事を行うことなど、対人関係があり、ある目的を持って行う社会活動への参加が有益である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では地域居住高齢者を対象とし、MCI有無に関連する特徴を社会活動に着目して検討した。地域で自立した生活をし続けるためには認知機能の低下した高齢者に対するアプローチは重要であり、このような高齢者にどのような介入をしていくかは理学療法の大きな課題である。本研究により、MCI高齢者の社会活動の現状が明らかになり、対人関係のある戸外活動の重要性が示され、理学療法実施に示唆を与える結果が得られた。