理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-23
会議情報

ポスター発表
Light Touchによる介入は立位制御学習を促進させる
近藤 至宏松浦 晃宏苅田 哲也山口 啓介門永 愛史森 大志
著者情報
キーワード: 重心動揺, EMG, Light Touch
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】立位姿勢制御を適切に行うためには,固有感覚情報と伴に触(圧)覚情報が,その学習のために重要な役割を担うことがわかっている。従って,患者の運動学習を促進するために,徒手的な介入を多用するが,その程度は必ずしも一定していない。そこで我々は,異なる強度の体性感覚入力による,重心移動学習の効果と,その際の足関節筋活動を調べ,立位姿勢制御を学習するために有効な介入方法を検討した。【方法】対象は,健常成人17 名、平均年齢は27.6 ± 4.6 歳であった。対象者には,重心動揺計上で閉足直立位をとらせ,前後6cmずつを移動幅としその幅を5 秒間かけてできる限り安定した重心移動を繰り返すよう依頼した。この運動学習課題を促通するために3 種類の介入を行った。そのうちの2 種類は徒手的介入として,Light Touch(LT,10mmHg以下)およびForce Touch(FT,30mmHg以上)で,胸郭外側を両側より把持し,前後の重心移動を誘導した。また,非徒手的介入として,前後の規定位置に重心が到達するとブザーで知らせ,Audio Feedback(AF)により介入した。各介入は1 分間のトレーニングを3 回実施し(train),その後,介入なしの状態で1 分間の重心移動を行った(test)。Trainとtestによる重心移動は,重心動揺計と足関節筋[前脛骨筋(TA),長腓骨筋(PL),腓腹筋(GA)]から筋活動を記録し評価した。また,連続試行による学習の累積効果をなくすため,AF,LT,FT実施後は1 日以上の間隔をあけ,実施順序はランダムで行った。重心動揺計から得られたデータは,動揺中心よりサンプリングした各点の動揺位置のベクトルより,8 方向区画に分けて区域毎の総和を求め,左右3 区画ずつを左右方向の動揺の拡がり,前後1 区画ずつを規定位置への到達程度と規定した。それぞれの平均位置ベクトルの和について,各条件とtrainまたはtestを要因とする二元配置分散分析および多重比較を行った。筋電図の分析は,各筋の最大随意収縮の筋電図から得られた積分値における,各試行の積分値の割合を求め,testに対するtrain の筋活動の割合(%)を算出した。各条件間の比較には一元配置分散分析および多重比較を行った。それぞれの有意水準は5%および1%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施については大山リハビリテーション病院倫理委員会の了承を得て行い,すべての対象者に実験の主旨を説明し,書面にて同意を得た。【結果】左右方向6 区画の位置ベクトルの和は,train / testと各条件の間に交互作用を認めた(F=3.847,p<0.05)。多重比較では,FT-testがFT-train,LT-test,LT-trainよりも有意な増加を示した(すべてp<0.01)。AFのtrain,testもFT-train,LT-test,LT-trainよりも有意に高値またはその傾向を示した(AF-train vs. FT-train: p=0.52, その他はp<0.05)。前後方向2 区画の位置ベクトルの和では,交互作用を認めず(F=1.313, p=0.2761),各条件間に主効果を認めた(p<0.01)。train,testともにAF,FT,LTの順に大きく,多重比較において,trainではAFとLTに(p<0.05),testではAFとLT(p<0.01),FTとLT(p<0.05)の間に有意差を認めた。test対するtrainの各筋のEMG割合はAF(TA: 98.7%,PL: 105.8%,GA: 98.9%),FT(TA: 59.3%,PL: 84.8%,GA: 89.5%),LT(TA: 62.5%,PL: 89.1%,GA: 93.7%)であった。各筋での有意差は,TAにおいてAFとFT,LT(p<0.01)で認め,PLにおいては,AFとFT(p<0.05)で認めた。【考察】左右方向の位置ベクトルより,LT-test,LT-train,FT-trainの間に有意差を認めず,FT-testが有意な増加を示すことから,LTはtrain時の左右動揺に対する介入がtest時にも持続し,一方でFTは,trainの介入効果がtest時には認められなかったことを示している。また,AFはtrain時から前後左右方向への動揺が大きく,従ってtest時も同様であった。また,FT もLTに比べてtest時の前後動揺は大きくなった。筋電図の結果では,FTやLTの筋活動割合が低い傾向にあり,test時に必要な筋活動をtrain時に出力できていなかった可能性がある。一方でtrain時の筋活動をtest時に再現出来ているAFであっても,徒手的な体性感覚誘導のない状態が,不正確な運動を学習させる可能性を示唆した。今回は,有意差を認めなかったが,LT-testはFT-testより高い筋活動を示す傾向にあり,LTのわずかな触覚誘導が,足部への適切な固有感覚情報を与え,効率的な運動を学習させる可能性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】臨床においてセラピストや患者の介助に関わるコメディカルが,必要以上の徒手的介入や,反対に必要な状況で無介入である場合,患者の運動学習を阻害する原因となることが考えられる。セラピストは適切な介入,誘導の程度を把握し,治療あるいはスタッフ指導をしていく必要がある。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top