理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-44
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ポスター発表
足関節背屈制限による投球動作への影響
浅川 大地河内 淳介中澤 理恵坂本 雅昭
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抄録

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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