抄録
【目的】股関節疾患の理学療法を進める上で、股関節だけでなく足部にアプローチすることで歩容が改善するケースがある。しかしながら、変形性股関節症(以下股OA)の足部についての報告は十分なされていない。そこで2012年度の本学術大会で我々は、健常人と比べ股OAの足部アライメントが破綻していることを提唱した。しかし前回の報告では、足部アライメントに及ぼす要因を十分に解明できなかった。足部アライメントの破綻因子として、股関節の器質的変化、可動域制限、筋力、跛行などが予測される。そこで本研究の目的は、股関節機能、跛行と足部アライメントの関係性を明らかにすることである。【方法】対象は手術の既往が無い股OA22例(両側OA9例 片側OA13例 女性20例 男性2例)31肢である。また、跛行の有無が足部アライメントに影響を及ぼすかを明確にするために、Duchenne歩行(以下D歩行)を呈する群(平均年齢67.9±8.6歳以下D群)14肢と、跛行を呈さない群(平均年齢69.6±11.2歳以下O群)17肢に分けた。足部評価として以下の項目を測定した。下腿長軸と踵骨がなす角度(以下 LHA)は、踵骨近位・中位・遠位中央、アキレス腱遠位中央、下腿遠位1/3中央にマーキングし、自然立位における下腿と後足部をカメラで後方から撮影し、画像解析ソフトImageJを使用し求めた角度3回の平均値とした。また同様の立位姿勢で、母趾外反角、アーチ高率を求めた。次に股関節評価として、X-p正面画像より求めた頚体角、可動域、VAS、外転筋力・伸展筋力を測定した。筋力はハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas F-1)と固定ベルト用い、最大等尺性収縮5秒間を2回測定した高値の体重比(kgf/kg)を算出した。対象全体で足部と股関節の相関を求め、またD群とO群で足部評価の比較検討を行った。なお統計はt検定、マンホイットニ検定、ピアソン相関係数を用い危険率は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院において股OAに実施している治療上必要な検査からなり、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを説明し、同意を得ることができた場合のみ対象として計測を行った。【結果】対象全体の足部と股関節の相関は以下の結果となった。頚体角と母趾外反角に負の相関(r=-0.73 p<0.01)が認められ、頚体角とアーチ高率に正の相関(r=0.59 p<0.01)が認められた。可動域は、LHAと屈曲(r=-0.57 p<0.01)・外転(r=-0.48 p<0.01)・内転(r=-0.42 p<0.05)・内旋(r=-0.44 p<0.05)に負の相関が認められた。次に母趾外反角と屈曲(r=-0.55 p<0.01)・伸展(r=-0.49 p<0.01)・外転(r=-0.57 p<0.01)・内旋(r=-0.41 p<0.05)に負の相関が認められた。またアーチ効率と屈曲(r=0.61 p<0.01)・伸展(r=0.55 p<0.01)・外転(r=0.51 p<0.01)に正の相関が認められた。VASと足部に相関は認められず、筋力も、外転筋力とLHAのみ負の相関(r=-0.51 p<0.01)が認められた。D群とO群の足部の比較は以下の結果となった。LHAはD群14.9±4.4°O群9.3±3.3°でD群の方が高値を示した(p<0.01)。母趾外反角もD群33.9±16.0°O群20.0±6.5°とD群の方が高値を示し(p<0.01)、アーチ高率はD群16.9±4.6%O群22.1±3.4%でD群の方が低値であった(p<0.01)。【考察】頚体角・股関節外転可動域と足部アライメントに相関が認められた。頚体角の減少は内反股を意味し、股関節外転可動域制限が生じることで股関節は内転位となる。それに伴い、膝関節は外反位、足部は内側荷重となり、外反母趾・偏平足・後足部回内を呈しやすいと考えられる。また、股関節屈曲・伸展・内旋可動域と足部アライメントにも相関があった。屈曲・伸展可動域制限により歩行時、歩幅は減少し骨盤回旋の代償が大きくなる。特に股関節伸展制限は立脚後期に股関節伸展の代償動作として過剰な同側骨盤後方回旋が出現する。その結果、蹴りだす時に前足部に外転ストレスが加わり外反母趾・偏平足につながると考えられる。次にD群は、O群に比べ後足部回内、外反母趾、偏平足を呈した。この要因としてD歩行は床反力ベクトルを股関節中心に近づけるため同側方向に体幹を側屈させる。この時、立脚側の股関節は外転し対側の骨盤は挙上する。この姿位は足部内側荷重となり、足部ライメントの破綻につながったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】足部マルアライメントの要因としては、頚体角・可動域・跛行の影響が大きかった。このことは股関節の変形が進行することで隣接関節だけでなく足部まで影響を及ぼすことを意味し、また足部アライメントの評価は股関節評価の一指標になる可能性があると示唆された。