理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-33
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ポスター発表
姿勢保持・変換時における心拍数変化の分析
古川 順光
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キーワード: 心拍数, 姿勢, 重力
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抄録

【はじめに、目的】理学療法の中では,対象者の能力や運動療法の目的に応じて種々の姿勢を用いる.また,理学療法開始・終了時や背臥位から立位など大きく姿勢を変換する時などには,リスク管理上からも血圧や脈拍などバイタルサインの確認が行われている.しかし,背臥位から側臥位,腹臥位から四つ這い位などのわずかな姿勢変換時毎に,その確認は行われることは少ない.研究面においても,立位・背臥位における循環系の反応に関する報告はみられるものの,他の姿勢における分析はほとんど行われていない.そこで本研究では,運動療法で使用されることが多い数種の姿勢における心拍数を測定・分析することを目的とした.【方法】対象は健常成人女性7 名(平均年齢:20.4 歳,平均身長(標準偏差):158.0(4.7)cm,平均体重(標準偏差):51.5(6.9)kg)とした.被験者に5 つの姿勢(背臥位・側臥位・腹臥位・四つ這い位・膝立ち位)を保持させた.姿勢の保持時間は,背臥位は4 分間,その他の姿勢は3 分間とした.各姿勢保持時の心拍数[beats・min -1 ]を測定するために,被験者に心拍モニター(S810i,Polar社製)を胸部に装着させ,各姿勢を保持している間,一拍毎に継続的に測定した.測定した後半1 分間の値を平均し測定値とした.さらに各姿勢を保持してから心拍数が安定するまでの時間[sec]を算出した.心拍数安定の基準は,測定した心拍数の前後各3 拍(計7 拍)の標準偏差を算出し,各姿勢保持中において最小となった時点と規定した.各姿勢間での心拍数の比較は,IBM SPSS Statistics Ver.19 を使用し行った(Friedman検定,多重比較:Wilcoxonの符号付順位検定).有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し,実験の目的・手順・予想される危険性等について書面と口頭で十分に説明し,実験に協力することに対する同意を得た.なお,本学研究安全倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】各姿勢おける心拍数の平均値(標準偏差)は,背臥位59.5(5.2),側臥位60.9(4.2),腹臥位61.6(6.6),四つ這い位66.6(4.9),膝立ち位73.0(9.8)beats・min -1 で,膝立ち位が背臥位・側臥位・腹臥位よりも有意に高かった.一方,各姿勢での心拍数が安定するまでの時間の平均値(標準偏差)は,背臥位135(102),側臥位98.0(37.1),腹臥位 98.0(38.3),四つ這い位 96.9(28.6),膝立ち位 128(43.9)secで,有意差はなかった.【考察】姿勢の保持や変換を伴う理学療法施行時に重力の影響を考慮することが必要である.臥位においては重力に抗した姿勢保持活動は少ないが,立位姿勢を保持するためには抗重力筋の活動が必要となる.また循環系の反応として,抗重力位である立位では,重力下で体液が身体下方に貯留することにより静脈還流量減少・一回拍出量減少・血圧低下が起こり,心肺部や動脈の圧受容器反射により心拍数が増加し循環系の調節がなされる.背臥位と比較し立位での心拍数増加率は30%との報告があるが,本結果において膝立ち位時の心拍数は,背臥位・側臥位・腹臥位時と比較し約20%の増加がみられた.支持基底面が広く重心が低い膝立ち位保持においても,立位時と同様の抗重力筋活動による交感神経系の亢進・重力による循環系への影響があることが示唆された.一方,背臥位・側臥位・腹臥位では心臓の位置も低く徐重力方向の循環であること,四つ這い位では膝立ち位と比較して安定した姿勢であることから,重力の影響が少なく心拍数変化が著明ではなかったと考えた.また,心拍数が安定するまでの時間が各姿勢間で差がなかったことは,循環調節機構が正常に機能していれば,いずれの姿勢においても1 分半から2 分程度で定常状態を維持できる能力を有していることを示していると考えた.【理学療法学研究としての意義】理学療法は各種・強度の運動を,様々な姿勢で対象者に実施させるため,それらが身体へ与える影響を検討することは重要である.本研究は運動療法に用いられる各姿勢を保持した際の心拍数への影響を検討した.その結果,臥位では背臥位・腹臥位・側臥位は同様に応答し,臥位と膝立ち位では異なる応答となることが分かった.さらに姿勢保持中に運動を負荷した場合や障害を有する対象者に関して検討を進めることにより,理学療法中姿勢保持時の心拍数への影響を考慮する指標になると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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