理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-22
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ポスター発表
片側上肢挙上動作に伴う予測的姿勢制御は、頸部前屈姿勢の影響を受ける
須藤 久也大隈 亮大賀 辰秀井田 雅祥
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抄録
【はじめに、目的】1967 年にBelen’kii et al.らの研究によって、立位姿勢から急速に前方へ片側上肢を挙上する場合、主動作筋である三角筋前部線維の放電開始に先行して、同側の大腿二頭筋と対側の脊柱起立筋の放電が開始することが発見された。このような先行的な筋放電は、主運動に伴って生じる重心動揺を最小限に抑えるための活動とされており、予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustments: 以下.APAs)と呼ばれている。APAsは脊髄より上位中枢の関与が示唆されており、脳卒中、脳性麻痺、パーキンソン病、小脳病変患者でAPAsの異常が認められることが報告されている。臨床上、中枢神経系の病変がある患者では姿勢制御能力の破綻が認められることが多く、運動課題遂行時に、随伴して生じる身体動揺を制御できずに転倒を招く危険性が高い。そのような易転倒性を有する患者は、動作前に頸部が前屈し視線が床面に固定されているような傾向が強く、頸部の姿勢変動により容易にバランスを崩してしまうことが多い。これまで、姿勢アライメントとAPAsとの関係について、いくつかの先行研究がなされているが、頸部の開始姿勢に着目したものは散見できない。そこで今回我々は、健常成人を対象として、頸部の開始姿勢の違いがAPAsにどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的に、本研究を実施した。【方法】対象は、神経学的疾患の既往が無い健常成人男性9 名(平均年齢:32.0 ± 8.6 歳、平均身長:172.0 ± 8.1cm、平均体重:62.4 ± 7.5kg)とした。課題動作は、肩幅程度に開脚した安静立位から、クリック音刺激に対して可能な限り素早く右上肢を肩関節が90°屈曲位となるように位置させる、とした。開始姿勢を2 条件設定し、頸部前後屈0°位(以下.中間姿勢)、頸部最大前屈位(以下.前屈姿勢)とした。上記2 条件で各10 試行ずつ計20 試行実施した。表面筋電図(日本光電工業社製Neuropack MEB-2200)により、課題遂行中の筋活動を記録し、筋活動開始時間を算出した。対象筋は、右三角筋前部線維(Anterior Deltoid:以下.AD)と右大腿二頭筋(Biceps Femoris:以下.BF)の2 筋とした。サンプリング周波数は10KHzとし、バンドパスフィルター(10-1000Hz)をかけた後、全波整流処理を行った。なお、筋活動開始時間の定義は、1)音刺激開始前100msec間における平均放電量を基準として、AD:20 倍、BF:7 倍を超えた時点、2)筋活動開始から10msec間の平均放電量も1)の放電量を超えている、の2 条件を満たしたタイミングとした。また、BFの活動開始からADの活動開始までの時間を“見越し筋放電時間”として算出し、統計処理に用いた。統計処理は、2 条件における見越し筋放電時間について、対応のあるt-検定を行った(SPSS11.0J、有意水準5%未満)。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理審査委員会において承認を得た上で実施した(承認番号:634)。また、各対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、書面で同意を得た。【結果】頸部中間姿勢と前屈姿勢における見越し筋放電時間はそれぞれ、31.8 ± 31.4msec、21.7 ± 39.1msecであり、頸部前屈姿勢において有意に短縮した(P<0.05)。【考察】本研究の結果から、頸部の開始姿勢の変化はAPAsに影響を及ぼすことが明らかになった。身体運動は、断続的に上位中枢機構に上行する身体各部位の位置に関する固有感覚情報に基づいて制御されていると考えられており、ダイナミックな運動開始に付随するAPAsも体性感覚情報に影響を受けることが先行研究によって報告されている。例えば、Itoらの研究では、閉眼で立位姿勢の被験者に頸筋背側部への振動刺激を与えてからつま先立ちを開始させた場合、APAsがより早期に生じたと報告している。また、その他にAPAsに影響を与える要因として、運動開始前の初期重心位置が挙げられる。Azumaらの研究では、9 種の初期重心位置からできるだけ素早く前方へ一歩踏み出し動作を行った場合、初期重心位置の変化によって前脛骨筋の見越し筋放電時間が影響を受けることを明らかにしている。これらの先行研究同様、頸部前屈姿勢によっても身体各部位の相対的位置関係及び身体と重力の方向との関係が変化することで、中枢神経系に入力される固有感覚情報が変化し、BFの見越し筋放電時間の差が生じたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床上、運動開始前の姿勢アライメントが、その後の運動の安定性やパフォーマンスに影響を与えていることは実感するところである。今回得られたデータをもとに姿勢とAPAsの関係を明らかにすることで、姿勢調節障害を有する脳血管障害患者に対する新たな評価法や治療法を開発する手がかりになると考えている。
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© 2013 日本理学療法士協会
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