理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-22
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ポスター発表
重錘落下課題の繰り返しによる姿勢制御の適応
齊藤 展士笠原 敏史山中 正紀
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キーワード: 姿勢制御, 適応, 筋活動
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抄録
【はじめに、目的】立位で手に把持した重錘を落とす上肢運動課題を行うとき,重錘が手から離れた直後に身体の後方動揺が起こる.中枢神経系はこの身体動揺を抑えるために姿勢筋を働かせて姿勢を安定化させる(Aruin et al. 2001).姿勢の安定化のための姿勢応答は複数の異なる神経機構が関与することから,姿勢筋の活動タイミングによって予測性姿勢応答(上肢運動が起こる-100 ms から50 ms),自動性姿勢応答(50 ms から200 ms),随意性姿勢応答(200 msから350 ms)と区分されている(Latash 2008).運動課題を繰り返すことにより運動能力が改善することはよく知られている.また,床の前後移動や傾斜といった外乱刺激に対する立位保持能力も刺激の繰り返しにより改善することが知られている.しかしながら,姿勢の安定性が求められる上肢運動課題の繰り返しにより姿勢制御の改善や適応が起こるかどうかはほとんど調べられていない.そこで今回,我々は立位における重錘落下課題を繰り返し行うことで,姿勢制御の適応が起こるかどうかを調べた.もし,姿勢制御に適応が起こるなら,それは姿勢応答のどのタイミングで起こるのかも調べた.【方法】 10 名の健常成人(21 ± 1 歳)を対象とした.被験者は両上肢を肩関節90 度屈曲位で立位を保持した.まず,体重の3%の重錘を両手で把持し任意の時間で落とした(以下,プレテスト).これを10 試行繰り返した.次に,重錘を落とすと同時に体重の6%の力で体幹を前方へ引っ張る外力を与える課題(以下,適応テスト)を50 試行繰り返した.最後に,プレテストと同様の課題を20 試行繰り返した(以下,ポストテスト).前脛骨筋,腓腹筋,大腿直筋,および大腿二頭筋の筋活動を記録し(日本光電社製),姿勢応答の各タイミングにおける積分筋電図を計算した.それらは最大随意収縮時の積分値とプレテストにおける積分値とで標準化された.身体各部位に反射マーカーを取りつけ三次元動作解析装置(Motion analysis社製)により身体位置の変位を求めた.10 試行毎の平均値を算出し,プレテストとポストテストの比較,適応テスト内での比較を行った.統計検定には対応のあるT検定と反復測定一元配置分散分析,post-hoc testを用いた.危険率は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】この研究は,ヘルシンキ宣言に基づき対象者には必ず事前に研究趣旨を文書および口頭で十分に説明し,書面にて同意を得て行った.【結果】プレテストにおいて腓腹筋と大腿二頭筋の活動は重錘を落とす直前から予測性の強い抑制が観察され,頭部の変位(3.6 ± 1.2 cm)は少なかった.適応テストを繰り返すと,それらの筋の抑制は全ての姿勢応答のタイミングで有意に減少した(各々,p < 0.01).また,頭部の変位は繰り返しにより有意に増加した(7.0 ± 1.2 cm, p < 0.05).ポストテストにおける大腿二頭筋の予測性応答をプレテスト(1.0 ± 0.0)と比較すると,最初の10 試行の平均(0.80 ± 0. 13)には有意な差があったが(p < 0.05),後の10 試行(1.06 ± 0.17)では有意な差は無かった(p = 0.47).【考察】重錘を離すと同時に外力が与えられる適応テストの繰り返しにより姿勢筋応答に適応が起こったことは,適応テストとプレテストで異なる姿勢保持戦略が必要であることを示唆している.また,この適応は予測性応答でも観察されたことから,姿勢の安定性の保持には運動開始前に起こる予測性の姿勢応答が重要であることを示唆している.適応テストで獲得された姿勢制御の適応はポストテストにおいて少ない繰り返しでプレテストの結果と差が無い状態まで回復した.これらのことは,立位での上肢運動の繰り返しにより姿勢の安定化のための素早い適応が起こることを示唆している.【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションの場面において,我々,理学療法士は患者に運動を繰り返し行わせることで能力改善を目指す.しかしながら,立位における随意運動の繰り返しにより姿勢調節の改善が起こるかどうか,そのタイミングに関してもよく理解されていない.姿勢の安定性が立位での適切な上肢運動の遂行に寄与することから,これらを理解することは姿勢調節の改善のためだけでなく,目的動作の改善にとっても重要な課題であり,理学療法士が適切な治療を提供するための一助となるはずである.
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© 2013 日本理学療法士協会
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