理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-S-01
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セレクション口述発表
要介護高齢者における認知機能低下は歩行能力にどのような影響を及ぼすのか?
―12か月の前向きコホート研究―
中窪 翔土井 剛彦堤本 広大三栖 翔吾澤 龍一小野 玲
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抄録
【はじめに、目的】 加齢に伴い、身体・認知・精神機能は相互に関連しながら低下していく。その中で、認知機能低下と身体機能低下の関係性は多くの先行研究で報告されており、特に身体機能の中でも移動動作を支える歩行能力は、認知機能の低下した高齢者で有意に低下することが報告されている。また、高齢期における認知機能低下は転倒との関連が報告されており、これは認知機能低下により歩行能力が低下していることが一因であると考えられている。転倒・骨折は要介護状態となる原因の10.2%を占めており、認知機能が低下している要支援・要介護高齢者にとっては、更なる介護度の悪化を防ぐためにも、安全で安定した歩行を維持することは重要であると考えられる。しかし、要支援・要介護高齢者において、認知機能低下に伴い歩行能力のどの側面が機能低下するのかは明らかでない。本研究の目的は、認知機能の変化が歩行能力の速度・安定性といった側面に影響を与えるのかについて縦断的に検討することである。【方法】 対象は、デイサービスを利用する要支援・要介護高齢者のうち、認知機能及び歩行計測をベースライン調査 (1期) として評価し、12か月後に再評価 (2期) を実施した28名 (平均82.1 ± 6.0歳) とした。対象者の介護度の内訳は、要支援1: 7名、要支援2: 5名、要介護1: 10名、要介護2: 3名、要介護3: 3名であった。認知機能評価はMini-Mental State Examination (MMSE) を使用し、1期と比較して2期に点数が低下している者を低下群、その他の者を維持群とした。歩行計測は、加速路、減速路各2.5mを有する計15mの歩行路にて3軸加速度計を内蔵した小型センサを右踵部、第3腰椎棘突起部に装着し、通常歩行下で実施した。歩行能力は、歩行速度の他、踵部の加速度データより、踵接地を同定し、定常状態にある5ストライドにおいて、腰部における前後、垂直、側方方向の加速度データよりharmonic ratio (HR) を算出し、歩行安定性の指標とした。HRは高値であるほど動きが円滑で安定した歩行であることを示す。統計解析は、1期の各変数の群間比較に対応のないt検定、カイ二乗検定を用いベースラインの対象者特性を2群間で比較した。その後、目的変数を歩行速度、及び各方向のHRとし、認知機能低下の有無と評価実施時期を2要因とする反復測定二元配置分散分析を行った。なお統計学的有意水準は5%未満をとした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施された。事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明して同意を得た者を対象者とし、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。【結果】 28名のうち、低下群は14名 (81.9 ± 6.1歳、女性9名) 、維持群14名 (84.3 ± 5.9歳、女性12名) であった。1期におけるMMSEは、低下群25.4 ± 3.0、維持群23.9 ± 5.0、歩行速度は、低下群0.85 ± 0.26m/s、維持群0.80 ± 0.21m/sであり、年齢等の一般情報も含め群間に有意な差はみられなかった。また、歩行速度において、有意な2要因の主効果及びその交互作用は認められなかった (F = 2.46, p = .13)。一方、HRにおいては、垂直・前後成分において有意な交互作用を認め、維持群と比較して低下群が低値を示した (垂直: F = 5.15, p = .03, 前後: F = 4.75, p = .04)。【考察】 本研究の結果において、12か月間の認知機能低下に対して、要支援・要介護状態にある高齢者は、歩行速度に変化は見られなかったが、歩行安定性の低下が伴うことが認められた。これは要支援・要介護高齢者において、調査開始の時点で身体機能低下が生じていたために、既に歩行速度は低下していたが、歩行安定性は比較的保たれていたために、認知機能低下に伴った歩行安定性の低下が特徴的にみられたと考えられる。そのため、要支援・要介護高齢者においては、歩行速度だけでなく、本研究で実施したような歩行評価を行い、詳細な歩行能力を把握することが重要であると考える。ただし、本研究は、対象者数が少なく、また認知機能の評価をスクリーニング検査であるMMSEを使用するのみに留まっているため、今後更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究において、要支援・要介護高齢者の認知機能低下が、歩行機能において歩行速度だけでは捉えきれない機能低下を引き起こしている可能性を示した。このことは、理学療法士が、認知機能低下を呈する高齢者の歩行を評価する際に、歩行速度だけでなく歩行安定性も合わせて評価する重要性を提言する一助となると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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