抄録
【はじめに、目的】近年、理学療法士養成校が急増し、理学療法士の数も増加の一途を辿っている。数年前から療法士の質が問題視されているが、現在では医療・介護業界に限らず様々な分野で取り上げられる事態になっている。何故ここまで療法士の質が問題になってしまったのだろうか。学生の質の低下や教育制度の問題などが原因として挙げられているが、私たちは施設における指導・育成者の質の問題に着目した。どんなに良い教育プログラムを立案し、専門的な知識や技術、ホスピタリティマインドを習得したとしても、リハビリテーション部門の基盤である管理者とリーダー間に共通の指導・育成理念及び、価値観がなければ一貫した教育は出来ないと考える。当ステーションでは今年度から教育体制を見直し、リーダーや新卒を含む若手療法士に対する教育プログラムを作成し運用している。『人として、療法士として、社会に通用する人材育成』を教育理念とした体制を紹介する。当ステーションリハビリテーション部門に教育体制はあるが、運用は現場に一任していたため、指導者の能力により育成に個人差が生じていた。平成24年度に新卒を含む7人の採用を行い、人としても療法士としても、社会に通用する人材の育成を目的として新しい教育システムを作成した。【方法】平成24年度に新卒療法士3名、病院リハ経験者4名の採用を行い、昨年度から在籍しているスタッフを含めたリハビリテーション部の計10人に対し、(1)当ステーションオリジナルの教育マニュアル・キャリアパス・人事考課表の作成(2)教育の中でのリーダー教育(3)人事考課制度にもとづく目標管理・評価を実施し、「日常のリハビリテーション業務を注意深く精確に遂行し、例外的な状況に創意工夫で対応できる現場の自律を高める。」という部門目標の達成と現場力の強化を目指した。教育マニュアルは理念、ビジョン、ホスピタリティ、倫理・法令遵守、リスクマネジメント・技術の6項目として年間予定を立てた。リーダー教育研修は、業務改善の習慣化という共通価値観の構築を目標とし、受身型から参加型へと段階的に内容を変えて実施している。新卒者は年間を通してプリセプターを付け、チーム内の療法士や看護師、ケアマネージャー全員によるフォローアップ体制をとった。また、年間の目標管理をもとに定期的な面談をスタッフ全員に実施し、状況に合わせて目標の再設定を行っている。【倫理的配慮、説明と同意】今回の報告にあたり、当ステーションスタッフに説明し同意を得た。【結果】リーダー研修ではリーダーの課題認識力が高まり、チームミーティングの活発化につながった。さらに現場から課題が出るようになり、チーム力の向上が認められた。新卒者はプリセプターやチーム内の様々な職種によるフォローアップ体制をとった事で、在宅リハビリテーションに従事する上で必要最低限のスキルを習得し、単独での訪問が可能となった。また、スタッフに対しての定期的な面談の実施が、抱えている課題や個人目標に対する進捗状況の把握を容易とし、状況に応じて目標の再設定を行う事が出来た。部門目標に関しては、今年度の行程目標はほぼ達成できたと言える。しかし、理念に対しての意識が薄く共通の価値観が形成されていない、研修会などの参加に消去的であり学習の習慣化がされていない、様々な症例に対し対応可能な療法士が少ない、療法士の社会的認識や今度の動向についての危機感が少ない、対外的な交流が少なく、自を俯瞰で見る機会が少ない事などの課題が明確となった。【考察】教育プログラムは順調に進み、今年度の工程目標はほぼ達成出来た。反省すべき点を一つ挙げるとすれば、手厚い指導教育を行う風土にあって、個人の自主・自律へのギアチェンジを進める推進力、つまりリーダーシップの脆弱さが見えてきた事である。どんなに良い教育プログラムを立案しても、管理者とリーダー間の連携やリーダーを中心としたチームが機能していなければ教育体制は効果を発揮しない。効果を高め、それを持続させるには、リーダーを中心に『育てる前に教える側の足場を固める』作業が重要となる。次年度はリーダー育成が第二段階へ移行する。課題は基盤となる基本的価値観=理念→ビジョンをチームスタッフへ浸透させ、リーダーがチームスタッフを次世代の教育者として育成するような体制を整えることである。10年後も、同じ質で持続出来る人材育成の体制を確立し、これから療法士を目指す人や子供たちに夢を与えられるような人材を育てていく。【理学療法学研究としての意義】療法士教育における戦略の報告は数多くあるが、現場の運用に視点をおいた報告は少ない。今回の報告を療法士教育の一助とし、次世代教育者の確立を目指す。