抄録
【はじめに、目的】効果的な臨床実習教育には、学生側の要素と同時に指導者側の要素も重要である。現状の臨床実習教育は実習施設及び臨床実習指導者(以下、SVと略す)により指導方法や内容に差があるように思われる。SVの学生教育に対する意識により、学生の成熟度は大きく変化する。そこで今回、現状を把握し、よりよい臨床実習教育への取り組み方法を考えることを目的とした意識調査を行ったので報告する。【方法】10年以上臨床実習を受け入れている3施設52名の理学療法士(以下、PTと略す)を対象としてアンケート質問紙法を行った。アンケート記入は無記名とした。不適切とみなせる処理として、項目の未記入者は除外し、また回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適切と判断されたものは除外した。集計はMicrosoft Excel 2010を用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、アンケート対象施設に対し、口頭および文書にて研究主旨を十分説明し、同意を得て調査を行った。【結果】回答は48名より得られた(回収率92.3%)。そのうち過去に学生指導をしたことがあるPTを分析対象とした。有効回答は34名(男:22名、女:12名)であった。 臨床経験年数は9.4±1.1年(平均±S.E.M)。指導経験年数はSV 5.0±0.9年、CVは5.1±0.8年であった。直近1年間の指導学生人数は、6.0±0.9人であった。指導にやりがいを感じますか?に対しては、感じる28名(82.4%)、感じない4名(11.8%)、その他2名(5.9%)であった。指導に負担を感じますか?に対しては、感じる30名(88.2%)、感じない2名(5.9%)、その他1名(2.9%)、無回答1名(2.9%)であった。指導方法について学びたいですか?に対しては、学びたい25名(73.5%)、学びたくない1名(2.9%)どちらでもない7名(20.6%)、無回答1名(2.9%)であった。養成校が指導者を評価することが必要ですか?に対しては、必要17名(50.0%)、必要ない13名(38.2%)、無回答4名(11.8%)であった。学生指導はセラピストとしての成長のために必要ですか?に対しては、必要30名(88.2%)、必要ない2名(5.9%)、無回答2名(5.9%)であった。理想とするSV像は?に対しては「学生が指導者のようになりたいと思われるような指導者」「学生の能力(レベル)に合わせた指導が出来る」「PTのやりがい、楽しさ、難しさを気付かせることが出来る」「気づく喜びを教えることができる」「学生の話を聞き、考えを引き出せる」「指導者の考えを押し付けず、学生と一緒に考えて成長させることが出来る」「学生の分からない点を適切にアドバイスができ、患者さんと接する事の楽しさ、責任感、充実感を経験させてあげることができる」「学生をやる気にさせて、立派な社会人、PTへと導くことができる」「実習生の積極性、考えをサポートすることができる」など様々な意見があった。【考察】今回のアンケート調査では、8割の者が指導にやりがいを感じ、学生指導はセラピストとしての成長のために必要と考えており、7割の者が指導方法を学びたいと思っていた。それらのことから、指導に前向きな姿勢を感じる者が多いと考えられた。その姿勢を維持、増進させることが重要と考え、指導に取り組むメリットを増やし、指導方法を学ぶ環境づくりが必要と考えられた。また、やりがいを感じない者や指導方法を学びたくない者に対しても、実習指導に興味を持つような働きかけが必要とも考えられた。約9割の者が指導を負担に感じており、負担に感じる要因を分析し、回避可能な負担軽減への取り組みが必要になると考えられた。5割の者が養成校が指導者を評価することが必要と考えていた。養成校はSVへの指導方法や指導内容に対してのフィードバックを含めた評価や教育に取り組む必要性が考えられた。よりよい理学療法士を輩出するためには、SVの質の向上が必要と考えられる。回答にあったような理想とするSV像を指導者への教育材料とし、指導者の成長がサポートできるような、実習施設と養成校の密な連携が重要と考える。今後も、調査エリアを拡大し、臨床実習現場の現状把握を行い、臨床実習教育を見直し、よりよい臨床実習教育が行える体制の構築を目指していきたい。【理学療法学研究としての意義】臨床実習指導に対するSVの現状を把握し、臨床実習指導の質を高めることが、理学療法教育にとって必要な作業である。今回の調査により現状を捉え、改善策を導くことは今後の理学療法教育の発展に必要だと考える。