理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-15
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一般口述発表
表面筋電図において歩行時筋活動を評価した、内側膝蓋大腿靱帯再建術後の1症例
歩行時痛の有無での筋活動の違いについて
神原 雅典島田 周輔石原 剛水元 紗矢加藤 彩奈浅海 祐介吉川 美佳井口 暁洋野口 悠千葉 慎一
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抄録

【はじめに、目的】当院では、反復性膝蓋骨脱臼症例に対し内側膝蓋大腿靭帯(以下、MPFL)再建術ならびに術後理学療法を施行している。本手術は、20年程前に報告された手術であり術後理学療法の報告は少ない。我々は第30回神奈川県理学療法士学会において当院でのMPFL再建術の経過について報告した。そこから、術後経過は関節可動域(以下、ROM)や筋力など機能面では良好な改善を認めているものの、程度や場所に差はあるが疼痛が残存している症例が多かった。今回、MPFL再建術後理学療法を施行した症例に対し、歩行時痛が出現している状態と出現していない状態での筋活動を表面筋電計により評価することが出来たので報告する。【方法】症例紹介:40代女性。職業介護士。小学生の時に右膝蓋骨脱臼し、以後両側膝蓋骨脱臼を10回以上認めたが、いずれも自然整復または自己整復されていた。今回の受傷は、小走りした際に右膝亜脱臼感があり、それをかばった際に左膝蓋骨脱臼。4週シーネ固定の後、自宅で再度脱臼。再度脱臼した1ヶ月後に左MPFL再建術(グラフトに半腱様筋腱使用)を施行した。その後理学療法施行し、術後8週にてフリーハンド歩行許可となった。術後3ヶ月半で仕事復帰したが、その後徐々に膝前面痛が出現した。疼痛は日差・日内変動はあるものの持続していた。術後5ヶ月の時点で表面筋電計により歩行時筋活動を評価した。筋活動を評価した時点での術側膝関節機能は、Apprehension Test陰性。ROMは屈曲150°、伸展0°で左右差なし。筋力は、MMTで大腿四頭筋3-(自動伸展不全5°)、ハムストリングス4(非術側はいずれも5)。膝関節筋力測定装置(Isoforce GT-380、OG技研)にて測定した大腿四頭筋等尺性筋力は屈曲60°で49N・m、体重支持数(WBI)45%、(非術側82N・m、WBI77%)。 屈曲90°で42N・m、WBI39%、(非術側74N・m、WBI69%)であった。また診療で用いられたレントゲン画像より、膝蓋骨低高位・外側傾斜・外側偏位を認めないことを確認した。計測動作:自由な速度で10mの歩行路を計6回歩行した。初めの3回はVASで4/10程度の歩行立脚時膝前面痛があった。その後、日常の臨床場面で本症例に施行していた足部へのテーピング(左距骨下関節回外誘導方向)を実施し、3回歩行した。テーピング施行時は、疼痛がVASで0/10になったことを確認した。筋活動の評価:大腿直筋(以下、RF)、内側広筋(以下、VM)、内側広筋斜走線維(以下、VMO)、外側広筋(以下、VL)を被験筋とし、筋活動を計測した。筋活動の計測には表面筋電計(Megawin Version2.0、Mega Electronics社、サンプリング周波数2000Hz)を用いた。得られた筋活動のRoot Mean Square(以下、RMS)振幅平均値を算出し、各筋のRMSとした。また膝屈曲60°での最大等尺性収縮を100%として正規化し、各筋の%RMSを算出した。算出された各筋の%RMSを歩行時痛有立脚相(以下、有立脚)、歩行時痛有遊脚相(以下、有遊脚)、歩行時痛無立脚相(以下、無立脚)、歩行時痛無遊脚相(以下、無遊脚)に分けて評価した。【倫理的配慮、説明と同意】当院規定の書面にて診療情報を研究活動へ用いることに対して同意を得ていることを確認した後、ヘルシンキ宣言に基づき、症例に研究の主旨を説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】RF(有立脚8.9%、有遊脚16.8%、無立脚19.0%、無遊脚9.0%)、VM(有立脚9.5%、有遊脚18.6%、無立脚22.0%、無遊脚9.3%)、VMO(有立脚14.7%、有遊脚34.9%、無立脚32.8%、無遊脚9.0%)、VL(有立脚12.5%、有遊脚23.7%、無立脚27.2%、無遊脚10.1%)であった。【考察】MPFL再建術後症例の歩行時筋活動を疼痛の出現している状態としていない状態で評価した。いずれの被験筋も歩行時痛が出現している状態では、立脚相での活動が低く、遊脚相での活動が高い傾向が見られた。反対に、歩行時痛が出現していない状態では立脚相での活動が高く、遊脚相での活動が低い傾向が見られた。本来これらの筋群は、立脚相で主に活動が高まる筋群であり、その活動が逆転している状態では、何らかのメカニカルストレスが生じ疼痛の起因となっている可能性があることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 MPFL再建術後症例の歩行時筋活動に言及した研究は見られず、少ない症例ではあるが提示することで、知見を共有・蓄積出来るので、本研究は理学療法研究として意義のあるものだと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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