抄録
【目的】 膝関節疾患症例や下肢の術後症例に対する運動療法において膝関節屈曲運動に伴い大腿外側部に疼痛が出現し、膝関節可動域拡大に難渋することは少なくない。膝関節屈曲運動では大腿外側の軟部組織の柔軟性や伸張性が重要であると報告されている。大腿外側に位置する軟部組織として、外側広筋(以下、VL)と深層に位置する中間広筋(以下、VI)では筋線維方向や収縮様式に相違があるとの報告は散見されるが、膝関節屈曲に伴うVLとVIの組織弾性変化やVLとVIの筋間(以下、intermuscle;IM)における組織弾性変化について調査した報告は渉猟し得た限り見当たらない。そこで今回、組織弾性の定量測定が可能なShearWave™ Elastography機能を用いて膝関節伸展位と屈曲位でVLとVIおよびIMにおける組織弾性の変化を測定した。得られた結果に考察を加え報告する。本研究の目的は膝関節屈曲運動に伴うVLとVIおよびIMの組織弾性変化を測定することで、膝関節屈曲可動域制限の一要因を明らかにすることである。【方法】対象は下肢に疾患を有さない健常成人8名16肢(男性5名,女性3名)、平均年齢30.6歳とした。VL、VI、IMの組織弾性測定には超音波診断装置Aixplorer(SuperSonic Image社製)のShearWave™ Elastography機能を用いた。使用したプローブの周波数帯域は16 MHzとした。測定肢位は被験者を長坐位とし、膝関節完全伸展位と最大屈曲位の2肢位とした。測定方法はプローブを短軸走査として膝蓋骨中心に当てた。次にプローブを外側へ移動させ大腿骨外側顆部を確認したところでプローブを90°回転させた。そのままプローブを近位方向へ移動させ大腿骨外側顆部の頂点を確認したのち、VIとVL両方の幅が等分される位置までプローブを移動させ測定位置とした。そこで筋束がfibrillar patternで描出できるよう調整したのちShearWave™ Elastographyの関心領域を1.2cm×1.2cmとしてVLとVIおよびIMの組織弾性を測定した。測定は3回行い、その平均値を計測値とした。統計解析はVL、VI、IMそれぞれの肢位による変化はWilcoxon符号付順位和検定を用いた。各部位間の比較にはSteel-Dwass法による多重比較検定を用い、各部位間の関係についてはSpearman順位相関係数を用いた。すべての検定で有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は筆頭演者の所属する病院の臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで、被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明し同意を得た。【結果】膝関節伸展位での組織弾性の平均値は、VL:25.2kPa、VI:35.1kPa、IM:62.8kPaであった。膝関節屈曲位での組織弾性平均値は、VL:114.3kPa、VI:125.2kPa、IM:195.1kPaであった。各測定部位すべてで膝関節屈曲に伴い組織弾性の値は有意に増加し、硬くなることが示された(p<0.01)。伸展位では各測定部位の組織弾性に有意差はなかったが、屈曲位ではIMとVL、VIそれぞれの間で組織弾性に有意差を認め、屈曲位ではVLとVIに比べIMが硬くなることが示された(p<0.05)。膝関節屈曲位における各組織間の相関関係はVLとVI、VIとIMの間に相関関係は認められなかったが、VLとIM(rs = 0.74、p<0.01)では正の相関を認めたことから、VLの組織弾性が増加することでIMの組織弾性が増加することが示された。【考察】 本研究の結果からVL、VI、IMは膝関節屈曲に伴い、それぞれ組織弾性の値が増加し、硬くなることが示された。IMはVL、VIと比較して有意に組織弾性値が増加していた。このことから、VLとVIが膝関節屈曲に伴って伸張され、それぞれの筋形状が変化することでIMに圧縮応力が加わっていることを示していると考えられる。膝関節屈曲位におけるVL組織弾性とIMの組織弾性に正の相関を認めたことから、IMの硬化にはVLの硬さが関与している。これらのことから膝関節屈曲制限を有する患者に対して運動療法を行う場合には、単にVLやVIの伸張性を獲得するような操作を加えるだけでなく、VLとVIの間に加わる圧縮応力が軽減され、十分な筋の滑走が得られるような工夫が必要であることが示された。また、腸脛靭帯(以下、ITT)の緊張が高まることでVLに対する圧迫刺激が増大し、VLの伸張性が低下するとの報告もある。VLの組織弾性の増加にはITTが関与している可能性もある。ITTの緊張が高まることでVLの伸張性が低下するばかりでなく、IMへの圧縮応力が増加する可能性も考えられ検討を重ねる必要がある。今回は健常者のみでの検討を報告したが、今後健常者と患者間での比較や、関節可動域と組織弾性の関係などを検討することで、より臨床に活かせる研究になると考えられる。【理学療法学としての意義】本研究の結果は膝関節拘縮に対する運動療法を実施するにあたって、安全かつ効率的に治療を進めていく一助になると考える。