抄録
【目的】立位姿勢の安定化には,外界からの感覚情報や身体に生じる変化(身体内部情報)に基づく姿勢制御が重要である.パーキンソン病(PD)では固有覚の障害があり,これは姿勢障害に関与する重要な要因であるとの報告がなされている.そのため,PDは安定した姿勢制御の手段の一つとして主に視覚を利用して外部情報に注意を向けることで,身体内部情報の低下に対しての代償をしていることが考えられる.そこで,本研究ではPD患者に対して身体内部情報の一つである足関節位置覚に注意を向け,底背屈の度合いを識別する課題を実施し,その変化と立位制御能力との関連性について検討した.【方法】対象は75歳女性.発症からの経過期間は2年で,Hoehn & Yahr の重症度分類はstageIIIであった.なお,感覚障害等の合併症はなく,精神および認知機能に問題はなかった.課題は足関節位置覚の識別とし、閉眼椅子坐位で,単軸不安定板を使用した.左右それぞれの足関節において,足関節底屈5°,底背屈0°,背屈5°の識別を行った.識別角度については,検者がランダムに選択し,対象者の足関節を他動的に動かし,認識した角度を対象者に口頭で答えさせた.課題実施中は正誤については,誤答の場合にのみ,各試行終了後に対象者に正答を教えて再学習を促した.試行回数は左右各10回ずつ行い計20回を4週間にわたり理学療法実施時に行った.立位の重心動揺の測定方法としては,重心動揺計G-6100(アニマ社製)を用いて,裸足開眼立位で上肢は下垂し10sec間計測した.重心動揺の測定項目は総軌跡長(LNG)と外周面積(Env.area)の2項目とした.測定回数は1週ごとに行った.また,1週目,4週目にUnified Parkinoson’s Disease Rating Scale (UPDRS)Part3の項目を評価した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の目的や方法等に関して十分に説明し,研究参加の同意を得た上で実施した.【結果】足関節位置覚識別の正答率は,右足では1週目66%,2週目78%,3週目86%,4週目90%となり,左足では1週目80%,2週目94%,3週目96%,4週目98%となり正答率が高値を示す傾向となった.立位重心動揺測定は,LNG(cm)は1回目52.5,2回目50.8 ,3回目46.3,4回目43.7,5回目35.2となり,Env.area(cm²)は1回目11.5,2回目5.4,3回目3.4,4回目1.9,5回目0.96となり,LNG,Env.areaともに低値を示す傾向となった.また,1週目のUPDRS-Part3は27点,4週目のUPDRS-Part3は12点であった.【考察】本研究では,PD患者では足関節位置覚識別能力が低下していることが確認された.また,足関節の位置覚を識別する練習を行うことで,その能力が改善することや立位での重心動揺が減少する傾向が認められた.立位制御においては足関節を中心とした身体運動を介して,質量中心を安定な位置に回復させるための働きにより安定化を図っており,足関節位置覚識別能力の低下が身体内部情報の誤認を引き起こしていることで,姿勢制御に影響を与えていると考えられる.今回,重心動揺は開眼立位で経時的に計測していることから,識別課題を通じて内部情報である足関節位置覚に注意を向けることにより,内部の感覚情報を基にして重心の偏位を認識することが可能となり,身体内に生じた変化と実際に足関節に生じた底背屈角度との誤差が改善し,結果として立位時に生じる重心の偏位に応じた姿勢制御が可能になったと推測する.今後は,対象となる症例を増やして検討していきたいと考える.【理学療法学研究としての意義】PD患者に姿勢制御に影響する要因の一つとして,足関節位置覚の感覚識別能力の重要性が明らかとなった.PD患者の足関節位置覚の感覚識別能力に着目することで,姿勢制御に必要な身体内部情報を基にして改善させていくことが有効な一つの手段であると考える.