理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-15
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一般口述発表
椅子座位での足部と足尖へのリーチ動作における指先の運動軌道形成に関する研究
菊地 明宏鈴木 博人本間 秀文田中 直樹川上 真吾藤澤 宏幸
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抄録
【はじめに、目的】体幹運動は複数の関節によって構成されるため、それらの協調性を評価することは容易ではない。これまで、立位における体幹前屈・前傾運動時の腰椎と股関節の運動学的分析については幾つかの報告があり、腰椎・骨盤リズムとして知られる。しかし、胸椎を分離して腰椎および骨盤との協調性を検討したものは見当たらない。少なくとも体幹の協調性を評価するためには胸椎、腰椎、骨盤運動(股関節運動)を分離し、検討することが必要であろう。また、体幹運動の協調性の評価には座位姿勢が適しており、標準化テストとしては簡易な目的動作とすることが望ましいと考えている。以上の経緯より、本研究の目的は、椅子座位でのリーチ動作における指先の運動軌道形成と胸椎、腰椎、骨盤の角度変化を明らかにし、標準化テスト作成へ向けた基礎データを得ることとした。【方法】対象は、体幹前屈・前傾運動に影響を与える腰部と下肢に既往のない、健康若年男性8 名(年齢21.6 ± 1.3 歳、身長170.4 ± 5.8cm、体重68.6 ± 10.4kg、BMI23.6 ± 2.7)とした。開始姿勢となる端坐位は仙骨が床に対して垂直とし、上肢は膝蓋骨上縁に第3 指の先端をおき、頭頂と耳孔を結ぶ線が床と垂直になるように規定した。また、下肢では股関節内外転、内外旋中間位、足底から腓骨頭までの長さに椅子の高さを合わせ、下腿は床と垂直とした。課題動作は足部リーチと足尖リーチの2 種類とし、足部リーチは内・外果の中央前面(ankle touch, AT)、足尖リーチは第1 趾(toe touch, TT)を目標とした。測定項目は3 次元座標(アニマ株式会社, ローカス3D MA−3000)とし、赤外線反射マーカーを頭頂部、第7 頚椎(C7)、第12 胸椎(Th12)、第1 仙椎(S1)、第3 仙椎(S3)、左右の耳孔、大転子、大腿外側(大転子と大腿骨外側顆の中点)、第3 指先端に固定した。測定は電子メトロノーム(60 拍/分)に合わせて、課題動作を1 秒間で実施させた。なお、動作時間については十分な練習を実施し、サンプリング周波数は250Hzとした。動作の開始と終了は頭頂の運動を基準に決定した。データ解析として、骨盤傾斜角度をS1、S3 を結んだ線が鉛直軸となす角として、同様に腰椎傾斜角ではTh12、S1、胸椎角度ではC7、Th12 を基準として算出した。さらに、腰椎角度は腰椎傾斜角から骨盤傾斜角度を、胸椎角度は胸椎傾斜角から腰椎傾斜角を引いて求めた。角度変化について、全運動範囲を4 分割(0 〜25%、26 〜50%、51 〜75%、76 〜100%, MF、MM、ML、ME)して各々算出した。なお、データは運動時間を100%として基準化した。統計解析は、従属変数をリーチ動作における角度変化とし、動作条件(2 水準)と動作相(4 水準)の2 要因による二元配置分散分析を行った。また、多重比較検定はShafferの方法を用いた。統計学的有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、東北文化学園大学倫理委員で承認され、測定に先立って対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また、未成年者に対してはデータの使用に関して保護者の承諾も合わせてとった。【結果】指先の運動軌道は、STではほぼ直線であったが、TTではML以降に前方への軌道変化を確認した。関節角度の運動範囲は、TTでは胸椎33.3 度、腰椎18.5 度、骨盤27.2 度、ATでは胸椎32.2 度、腰椎16.8 度、骨盤20.8 度であった。骨盤の傾斜角度は動作相および動作条件ともに主効果が認められ、交互作用も有意であった(p<0.05)。動作相では、MLでの変化が最も大きくTTで14.2 度、ATで11.4 度であった。動作条件ではML、MEにおいてTTで有意に変化が大きかった。胸椎の角度は動作相のみ主効果が認められ(p<0.05)、MMでの変化が最も大きくTTで15.7 度、ATで17.2 度であった。腰椎の角度は動作相のみ主効果が認められ(p<0.05)動作条件と交互作用において、有意な傾向(p<0.1)を示していた。動作相ではMMでの変化が最も大きくTTで7.7 度、ATで9.1 度であった。動作条件ではMLにおいてTTで有意に変化が大きかった(p<0.05)。【考察】本研究結果から、TTでは運動後半に骨盤の動きが大きかった。指先運動軌道形成からもTTにおいて運動後半に前方への軌道変化を示しており、前方への軌道形成に骨盤の傾斜が影響していると考える。腰椎角度が運動後半に大きいことについても骨盤の動きとの協調性と考える。ATでは運動後半においてTTより骨盤と腰椎の動きが少ないのは、指先運動起動形成がほぼ直線的に下方へ軌道形成しているためと考える。【理学療法学研究としての意義】椅子座位での異なるリーチ動作において相毎に胸椎、腰椎、骨盤運動を分析して、運動戦略の違いを明らかにすることができた。標準化テストの開発へ向けて、有用な基礎データを得られた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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