理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0517
会議情報

口述
地域在住中高年者におけるロコチェックと年齢,運動機能との関連
新井 智之藤田 博曉丸谷 康平森田 泰裕細井 俊希石橋 英明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】長寿化が進む我が国では,運動器に障害をかかえる人は4700万人に及ぶとされ,ロコモティブシンドローム(ロコモ)の予防が求められている。ロコチェックはロコモの判定法として開発され,高齢者の運動機能と関連があることが報告されている。その一方で詳細な検討は行われておらず,年代ごとの比較やロコチェックの該当項目数による検討を行った報告はない。そこで本研究の目的はロコチェックと年齢,運動機能との関連を,ロコチェックの該当する項目数から調査し,運動機能評価表としてのロコチェックの有用性を明らかにすることとした。【方法】対象は高齢者運動器疾患研究所が主催する講演会の参加者及び埼玉県毛呂山町,日高市,鶴ヶ島市,伊奈町に在住する50歳以上の地域在住中高年者659人とした。平均年齢は74.2±6.8歳(56-94歳)であり,男177人,女482人であった。ロコチェックは7項目(①片脚立ちに靴下がはけない,②家の中でつまずいたり滑ったりする,③階段を昇るのに手すりが必要である,④横断歩道を青信号で渡り切れない,⑤15分くらい続けて歩けない,⑥2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。⑦家のやや重い仕事が困難である)であり,それぞれの質問に対し「はい」と「いいえ」の2件法で答える質問紙である。その他の測定項目は年齢,性別,BMI,運膝伸展筋力,足趾把持力,片脚立ち時間,Functional Reach Test(FRT),快適歩行速度,最大歩行速度,Timed‘Up and Go’Test(TUGT)を調査した。解析では,対象者を5歳ごとの年代別の6群に分け,年代間でロコチェックの「はい」と答えた項目数(陽性項目数)の比較を行った。次にロコチェックで1項目以上に該当したものをロコモ群,該当しなかったものを非ロコモ群に分け,両群間で各背景因子と運動機能との比較を行った。さらにロコチェックの陽性項目数により対象者を6群(0項目,1項目,2項目,3項目,4項目,5項目以上)に分け,各運動機能を比較した。統計解析にはSPSS 19.0J for Windowsを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し,研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文書を用いて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施している。【結果】年代別のロコチェック陽性項目数の中央値は,65歳未満,65~69歳で0項目,70~74歳,75~79歳で1項目,80~84歳,85歳以上で2項目であった。全対象者中,ロコモ群は349人であり,ロコモ該当率は53.0%であった(男44.1%,女56.2%)。両群間の比較では,ロコモ群は非ロコモ群に比べ,有意に年齢が高く,すべての運動機能が有意に低い結果となった(全てp<0.0001)。ロコチェックの陽性項目数の内訳は0項目が310人,1項目が154人,2項目が95人,3項目が46人,4項目が29人,5項目以上が25人であった。陽性項目数による検討では,陽性項目数が増えるほどに,すべての運動機能が有意に低い結果となった(全てp<0.0001)。特に陽性項目数が4項目,5項目以上の2群では,すべての運動機能が著明に低下していた。さらに性別ごとの結果は,男性では片脚立ち時間とTUGが陽性項目数3項目以上で,女性では足趾把持力と膝伸展筋力が陽性項目数3項目以上で著明に低下していた。【考察】本研究の結果から,ロコチェックは高齢になるほど陽性項目数が増えること,また陽性項目数が増加するほど運動機能が低下していることが示された。先行研究においてロコチェックは高齢者の運動機能低下の予見性があると報告されているが,本研究においても運動機能との関連が示され,高齢者の運動機能低下をとらえる手段として有用であることが明らかとなった。さらに本研究ではロコチェック陽性項目数4項目以上である場合には,高齢者の運動機能が著明に低下している可能性があることが示唆された。また男性ではバランス能力が,女性では下肢筋力が陽性項目数3項目以上から著明に低下していた。【理学療法学研究における意義】高齢化,長寿化が進む我が国の現状を踏まえれば,できるだけ早期から運動機能の衰えを確認できる手段が必要である。ロコチェックは7項目と少なく簡便に行うことができ,内容も一般市民にわかり易い質問票であるである。ロコチェックは運動機能低下を判定する方法として活用でき,一般市民が運動機能の低下に気づき,健康増進活動を促す手段として活用できるものである。

著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top