理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0276
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口述
大腿骨近位部骨折術後症例における活動量の推移
家庭用簡易活動量計を用いた検証
保地 真紀子中山 裕子袴田 暢
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抄録

【はじめに,目的】2011年に改訂された日本整形外科学会の大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインでは,大腿骨近位部骨折の危険因子の1つとして低体重が挙げられている他,栄養介入によりリハビリテーション期間の短縮が期待できるなど,栄養面の影響が示唆されている。われわれは,これまで大腿骨近位部骨折症例の予後に栄養学的因子が与える影響を明らかにすることを目的として調査を行ってきた。結果,大腿骨近位部骨折症例は入院時に既に栄養状態の悪化を呈している例が多く,当院では約半数が栄養管理の対象となっており,術後はさらに悪化し,容易に低栄養に転じるリスクを有していた。機能予後には,Alb値の改善,食事量が関連し,特に術後3週以内の比較的早期の食事量は歩行予後や入院期間,ADLの獲得に影響を及ぼすことが明らかとなった。また,食事量の推移についての調査から,術後の摂取エネルギー量の減少は顕著であり,回復には一定期間を要するものの,補助食品等の利用などにより,概ね3週で改善し,主食副食量自体も5週でプラトーに到達することが示された。この間の食事量の変化には,歩行やADL改善に伴う活動量の増加が影響している可能性があると考えられるが,活動量については体重,METS,および運動時間を用いた計算式等で推定する方法はあるものの,実際にリハビリテーション時やADLにおいて絶えず変化する身体活動を反映させるのは困難であり,これまで十分な検証はできていない。本研究の目的は,術後の活動量の増加が食事量の回復に影響しているという仮説の元,それを検証するための予備的研究として家庭用の簡易活動量を用いた計測を試み,結果について検証することである。【方法】対象は当院回復期病棟に入院していた大腿骨近位部骨折症例のうち,自立歩行を獲得し,退院に至った5名(男性2名,女性3名,平均年齢85.6±4.5歳)とした。2013年9-11月,TANITA活動量計AM-121 CALORISMを用い,身長,体重,年齢,性別,体脂肪率(体組成計にて測定)を設定,回復期病棟に入棟した術後2週から全例自立歩行を獲得した翌週である術後5週の時点まで,1週毎に測定日を設け,前日の夜から測定日翌日の朝まで3日間24時間以上装着,1日の活動エネルギー量を記録するとともに,理学療法時の活動エネルギー量を計測した。尚,活動量計は上半身にクリップで装着し,入浴時のみ外すこととした。計測期間中は1週毎にFIM得点の記録を行った。【結果】FIMは2週から3週にかけて93.6±7.3点から103.0±6.9点と10点近い改善が見られ,以降4週は105.6±6.5点,5週108.4±5.4点であった。活動エネルギー量は2週で170.9±65.0kcal,3週177.2±60.4kcal,4週199.3±68.0kcal,5週で199.1±75.2kcalと3週から4週にかけて顕著な増加が見られた。理学療法時の活動エネルギー量も同様に,2週16.6±8.6kcal,3週16.0±8.3kcal,4週20.4±10.7kcal,5週21.2±12.5kcalと4週に階段状の増加を示した。【考察】ADLは,術後2週から3週にかけてFIM得点で10点近い改善が見られ,以降は小幅な改善にとどまるものの,活動エネルギー量は3週から4週にかけての増加が特徴的であった。これまでの調査より,術後3週は総摂取エネルギー量がピークに到達する頃であり,この期間内における食事量と予後は関連するとの報告をしてきた。理学療法の初期介入では動作自立を目指したプログラムが組まれ,FIMの改善に寄与していることが伺えたが,今回の対象症例は3週までに歩行の介助量が減少し,理学療法時以外にも歩行する機会が増えるなど,病棟での過ごし方の変化が見られる時期と一致して活動エネルギー量の特徴的な増加が見られた。また,われわれの調査より主食副食量自体の摂取量の回復はさらに1週経過した術後5週でプラトーを迎えることが明らかとなっている。今回の調査より,ある程度の動作が自立し,活動エネルギー量の増加が見られた後に主食副食量が回復していることが示された。入院中はリハビリテーション室で行う理学療法や,排泄,入浴を除き,ほとんどを病室のベッドで過ごす患者も多い。獲得した機能をADL自立度だけでなく,活動量の増加にもつなげられるよう検討する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】大腿骨近位部骨折術後症例の活動量の推移についての予備的研究を行った。昨今の栄養サポートチームの普及につれ,リハビリテーション分野において栄養学的側面から考える必要性も高まってきている。術後の食事量の回復には一定期間を要するが,活動量の増加が関与している可能性があり,今後の介入の必要性が示唆された。

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© 2015 日本理学療法士協会
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