理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0275
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口述
大腿骨頸部および転子部骨折患者の自宅退院に及ぼすに因子について
田中 勇治若尾 勝木村 亮介福光 英彦星 虎男
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抄録

【はじめに,目的】わが国の高齢化は急速に進行し,現在超高齢社会となっている。10年以上前から要介護状態予防のための個別診断の項目として「転倒」が取り上げられているが,転倒件数は減少していない。転倒による骨折は寝たきりの大きな要因であるが,現在では手術を施行される症例が増えまた早期の自宅退院が必要とされている。大腿骨頚部および転子部骨折治療目的は,下肢の支持性のほか合併症や廃用性症候群の発生と増悪を予防し可及的早期に受傷前の生活をめざすことである。演者らは大腿頸部骨折手術施行例患者についてADLと退院先について検討し報告したが,退院先を決定すると考えられる要因が複数あり,退院先に関係する重要因子を特定するに至っていない。本研究では合併症を有した大腿骨頚部および転子部骨折手術施行例について,自宅退院に強く関係する要因を抽出すること目的とした。【方法】対象は,2011年および2012年に賛育会病院にて,大腿骨頚部骨折および大腿骨転子部骨折により手術を受け入院中に理学療法を実施した患者66例,平均年齢81.4±9.5歳,男性16例,女性50例とした。手術方法は人工骨頭置換術施行例20例,ハンソンピン施行例5例,ガンマーネイル施行例40例であった。合併症は,延べ数で認知症が40例,運動器疾患30例,循環器疾患17例,代謝疾患7例,呼吸器疾患7例,脳血管疾患4例,消化器疾患3例であった。基礎となるデータは入院中の診療記録より抽出した。抽出項目は,年齢,性,退院先,受傷前ADL,理学療法開始時と退院時のBarthel Index,在院日数,認知症と合併症の有無とした。退院先を自宅退院群(自宅群)と自宅外退院群(非自宅群)に分け,年齢,Barthel Index(BI)および在院日数については,t検定を実施した。性,受傷前ADL(自立,要介護),認知症の有無,合併症の有無については,カイ自乗検定を行い項目ごとに検討を行った。自宅群と非自宅群で有意になった項目のうち,連続変数の項目については相関行列を求めた。臨床的な重要性からの判断を加えて,受傷前ADL,認知症の有無,合併症の有無および退院時BIを説明変数,退院先を従属変数として,尤度比による変数減少法で多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した。【結果】自宅群と非自宅群で有意差が認められた項目は,t検定では理学療法開始時および退院時BI,カイ自乗検定では受傷前ADL,認知症の有無であった。t検で有意差の認められなかった項目を除外し,さらに相関のあった理学療法開始時および退院時BIのうち理学療法開始時BIを除外した。これにカイ自乗検定の結果で有意差の認められた受傷前ADLおよび認知症の有無に加えて臨床上重要と考えられる合併症の有無を説明変数とし,退院先を従属変数とする二項ロジスティック回帰分析を行った結果,退院時BIが有意な項目として選択された。モデルカイ自乗検定の結果はp<0.01で有意であり,Hosmer・Lemeshowの検定結果はp=0.387であった。退院時BIの偏回帰係数0.042であり,判別的中率は自宅群82.9%,非自宅群60%,全体74.2%となった。【考察】現在,本邦は超高齢社会となり高齢者が自立して活動することが必要となっている。そのため転倒予防など寝たきりを防ぐ対策が幅広い分野で行われているが,十分効果が出ていない上に,転倒後に大腿骨頸部や転子部骨折を受傷しその後寝たきりになる例は多数みられる。また,QOLや医療費の観点からも自宅退院が必要であり,転倒後の手術および理学療法は重要な意味を持っている。本研究では,自宅退院と非自宅退院に影響を及ぼす要因を抽出することを目的とし退院時BIが有意な項目として選択されたが,良好な判別結果ではなかった。その要因としては,この分析を実施するための症例数が少なかったことおよび必要な項目の不足があったと考えている。症例数については今後もデータを収集することで解決できるが,他の要因として予測される家屋状況や経済状況などの情報を十分に収集するための方策に課題がある。かしながら,本報告で抽出された退院時BIは,単独では判別に利用できないとしても自宅退院の重要な要素の1つであることは確認できたと考えている。【研究の意義】大腿骨頸部,転子部骨折術後に自宅退院を決定する要因は多数あると考えられるが,退院時BIがある程度重要な要因であることを示す本研究は手術後の理学療法に重要な意味を持つと考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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