理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-10-6
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口述演題
人工股関節全置換術前後における下肢筋力の非対称性と歩行時の荷重非対称性の関連と経時的変化
久保田 良森 公彦有馬 泰昭脇田 正徳金 光浩長谷 公隆飯田 寛和
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抄録

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)前後の歩行では,歩行速度や股関節負荷は床反力垂直分力前半の最大荷重と関連がある。また下肢筋力は床反力を主に構成するため,下肢筋力の非対称性は床反力垂直分力の非対称性に影響を及ぼすと考えられる。本研究の目的は,THA前後における床反力垂直分力,下肢筋力の非対称性の関連と経時的変化を明確にすることである。【方法】片側THAを施行した39名を対象とし,術前,術後6ヶ月,術後12ヶ月で評価を行った。最大歩行速度での床反力垂直分力を測定し,立脚期に生じる2つの峰のうち第1最大値(Fz1)を解析対象とした。下肢最大筋力は股関節外転,股関節伸展,膝関節伸展を測定し,アーム長,体重で正規化した。Fz1,下肢筋力の非対称性として対称性指数(SI)を用い,非術側と術側の値の差を非術側の値で除して百分率で算出した。統計解析は,各時期において,Fz1,下肢筋力それぞれの術側と非術側での比較,下肢筋力間のSIの比較を行った。経時的変化として,各時期間で術側,非術側それぞれのFz1,下肢筋力を比較した。さらに,各時期におけるFz1SIと下肢筋力SIの関連を検討した。【結果】各時期においてFz1,下肢筋力はいずれも術側で低値を示した(p<0.01)。術側Fz1は術後経過で増加したが(p<0.016),非術側では有意差を認めなかった。術側股関節外転筋力は術前より術後6ヶ月,術後12ヶ月で増加(p<0.016),非術側は術前より術後6ヶ月で増加した(p<0.016)。術側股関節伸展筋力は術後経過で増加(p<0.016),非術側は術前より術後12ヶ月で増加した(p<0.016)。術側膝関節伸展筋力は術前,術後6ヶ月より術後12ヶ月で増加したが(p<0.016),非術側は有意差を認めなかった。下肢筋力SIの比較では,術前では下肢筋力間で有意差を認めなかった。膝関節伸展SIは,術後6ケ月では股関節伸展筋力SI,術後12ケ月では股関節伸展,外転筋力SIよりも高値を示した(p<0.016)。Fz1SIは,術前では下肢筋力SIと相関しなかったが,術後6ヶ月では股関節伸展筋力SI(r=0.478),外転筋力SI(r=0.318),術後12ヶ月では膝関節伸展筋力SI(r=0.343)と有意な相関関係を認めた。【結論】THA前後の経時的変化では,Fz1,下肢筋力は術側で増加したが,非術側股関節周囲筋力の向上,術側膝関節伸展筋力の回復遅延を認めた。よって,Fz1,下肢筋力は術後12ケ月でも術側に対して非術側が高値であり左右非対称性が残存していた。またFz1と下肢筋力の回復過程と非対称性の関連より,術側筋力が改善する時期に筋力回復が良好な場合ではFz1もより対称,回復が遅延する場合ではFz1もより非対称になることが示唆された。さらに,股関節周囲筋力と比較した膝関節伸展筋力における術側の回復遅延や過大な非対称性がTHA長期経過後にも歩行機能に影響を及ぼすため,股関節周囲筋だけでなく膝関節伸展筋力へのアプローチの重要性が示唆された。

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© 2016 日本理学療法士協会
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