理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-05-5
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口述演題
末期変形性膝関節症に対する保存的治療の長期調査
宮川 博文池本 竜則赤尾 真知子北本 和督辻本 朋哉出家 正隆
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抄録

【はじめに,目的】日本における変形性膝関節症(以下膝OA)の診療ガイドラインでは,患者自身が主体的に取り組む定期的な有酸素運動,筋力強化訓練及び関節可動域訓練の継続が推奨度の高い(グレードA)治療法と明記している。しかし,運動療法の有効性を支持する無作為前向き試験(Randomized controlled trial,以下RCT)の多くは,対象のX線重症度が中等症迄であり,重度膝OAの運動療法のエビデンスは乏しい。一方,我々の施設では,X線重症度の高い膝OA患者でも適切な運動療法の指導により,1年後の痛みや膝機能が維持できる可能性を報告してきた。しかし,末期膝OA患者の長期的な運動機能の経過に関しては不明な点が多い。そこで今回我々は,X線重症度で末期膝OA患者の中で,3年間の運動療法実施者の身体機能に関する観察調査を行った。

【方法】対象は立位膝正面単純X線像からKellgren-Lawrence(以下K-L)分類において少なくとも片側がGrade4と判断され3年追跡調査可能であった末期膝OA患者9名とした。全例女性(平均年齢75.8歳)であり,大学病院併設型運動施設にて週一回以上,理学療法士(以下PT)指導下の自発的運動(有酸素運動,ストレッチング,筋力増強訓練など)を継続して行った。調査項目は形態(BMI),柔軟性(長座位体前屈),健脚度(最大1歩幅),種田らの考案した生活体力(起居動作能力,歩行動作能力,身辺作業動作能力)を測定した。統計解析はWilcoxon順位和検定を用い,危険率5%未満を有意水準とした。

【結果】BMIは調査開始時24.6±3.1,1年後24.8±3.0,2年後24.8±3.5,3年後24.2±2.7であった。同様に長座位体前屈は14.2±15.7,14.9±13.5,13.9±13.9,15.9±12.2cm,最大1歩幅は104.2±8.2,101.3±7.5,92.0±15.2,102.4±5.7cm,起居動作は9.2±3.2,7.9±2.1,8.3±2.3,8.4±1.6秒,身辺動作は6.8±1.1,6.8±0.9,6.5±0.8,6.6±0.6秒,歩行動作は8.4±1.2,8.0±0.8,8.3±1.1,8.5±1.5秒であり,全項目において,3年後の測定結果に統計学的な有意変化は認められなかった。

【結論】Tanakaらは膝OAの疼痛に対する運動療法の有効性をシステマティックレビューとRCTのメタアナライシスを対象に研究を行い,筋力増強訓練(特に非荷重),有酸素運動の有効性を報告している。これらの報告を参考とし,当センターにおいて膝OA症例に指導している自発的運動は,下肢アライメント改善を目的とした筋力強化・ストレッチング,歩行能力向上を目的とした能動型歩行訓練器を使用した歩行訓練,肥満改善・心肺持久力向上を目的とした有酸素運動を中心としている。本調査結果は,X線重症度末期の膝OA症例においても,PT指導下の継続した自発的運動療法により,長期間にわたり膝関節機能を維持できる可能性を示唆するものと考える。

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© 2017 日本理学療法士協会
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