主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
K市では平成19年度から介護予防事業の取り組みを行い、移動能力の基盤となる運動器に対する取り組みを開始した。以後、介護保険法の改正や介護予防マニュアルの変更などを経て、平成28年度より新しい介護予防・日常生活支援総合事業として、生活機能の向上と自立支援に向けて、訪問と通所を組み合わせて住民を主体とするポピュレーションアプローチに至る切れ目のない介護予防の継続を掲げて、モデル事業を行うに至った。これまでの介護予防についての知見から、運動器のみならず栄養や口腔機能を並列においた複合的プログラムとし、要支援の対象者の日常生活にどの程度の身体変化または行動変容をもたらすのかを検証した。
健康寿命の延伸を目指して、運動・栄養・口腔機能・認知症予防の複合的プログラムを提供する教室の開催が、介護保険の要支援対象者にどのような影響を及ぼすのかを明確にするために後方視研究を行った。
【方法】
K市内2地区における平成26年度および27年度の要支援1及び要支援2と認定された者のうち、通所型介護予防事業参加者は252名であった。このうち、研究についての説明と同意を得られ最終評価に至った37名(男性9名女性28名)を今回の研究の対象者とした。評価は、生活機能評価は担当者が自宅を訪問して聴取した。体力測定や栄養や口腔機能に関する項目は教室内にて実施した。教室は平成28年12月~平成29年3月に毎週1回開催し、計12回の実施とした。統計学的解析にはSPSS for Windows ver.12.0Jを用い、統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
生活習慣に関する項目・運動器に関する項目では、膝伸展筋力を中心とする改善がみられた。口腔機能に関する項目では、口渇感の減少や味覚・咬合力の改善など複数の項目で有意な改善がみられた。また、栄養に関する項目では、食事の内容の変化や食欲の増加がみられ、低栄養状態にある対象者は有意に減少した。
【結論】
要支援高齢者向け介護予防教室は、食事や生活に関する項目の改善項目が複数みられ、特に運動器や口腔機能・うつに対する項目の著明な改善がみられた。通所による複合的プログラムの事業実施による成果と考えられる。日常生活支援総合事業においては、口腔や栄養に関するプログラムを運動器プログラムと同時に提供することで要支援からの悪化を予防し健康寿命を延伸する複合的かつ継続的な教室開催の意義は大きいと考える。
健康づくりの原則は、個々人の自覚に基づく行動変容ではあるが、これを支援するための環境整備が不可欠である。健康維持をサポートする地域や企業などのネットワークを生かし、栄養や口腔機能、運動など他職種間で連携する複合的プログラムが切れ目なく提供されることが重要である。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には、参加申し込み時に本教室の趣旨を説明し、得られたデータの使用について同意を得た。