主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
p. C-29
運動器理学療法が対象とする疾患は多岐にわたるが,それらの多くの運動機能障害に対して理学療法による効果が示されている。しかし,疾患あるいは障害の進行予防に関するエビデンスはほぼ皆無である。特に,運動器疾患の中でも患者数の多い変形性股・膝関節症は慢性進行性疾患であり,疾患進行予防は重要なテーマである。変形性股・膝関節症においても,筋機能低下や歩行障害など機能障害の改善に理学療法が貢献し得ることは認められているものの,疾患進行予防に理学療法がどの程度貢献できるかは不明である。その原因の一つに,疾患進行に関わる危険因子の特定が不十分であることが挙げられる。変形性膝関節症においては,膝関節の機能障害の程度や歩行時膝関節過負荷などが疾患進行の危険因子として知られており,これらは理学療法により修正可能であると思われる。しかし一方,変形性股関節症においては,年齢や性別,遺伝的要因や骨形態異常などの危険因子が報告されているが,これらは理学療法による改善が困難であり,理学療法の守備範囲において危険因子は見つかっていなかった。
そこで我々は,理学療法で対応可能な因子の中から疾患進行の危険因子を特定するために,1)歩行時の股関節負荷,2)股関節・脊柱の機能障害,の2 つの観点から調査を進めている。そのなかで,1)1 歩行周期における股関節負荷と1 日の歩数との積から算出される股関節累積負荷,および2)脊柱の前傾姿勢および脊柱柔軟性低下が,変形性股関節症の進行に関連する因子であることが明らかとなった。本結果は,疾患進行予防に向けた第一歩であり,今後,それらの因子を変化させることによる予防効果を検証する必要がある。ただし,運動器疾患の予防のためには医療機関のみでの対応には限界があり,新たな仕組みが必要であろう。