理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OE-20
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口述発表
臨床経験年数がリスクマネジメントの意識に与える影響
仲山 勉久保木 通宮嶋 佑古川 勉寛
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抄録

【はじめに】

本院では,臨床経験年数の浅い理学療法士が多いことから,リスクマネジメント(以下,マネジメント)に関わる学習機会を充実させようと考えている。そのため,マネジメントに関わる当院のプログラムを作成する一助として,臨床1・2 年目の新人群と4 年以上の臨床経験を有する理学療法士群(以下,中堅群)に分け,理学療法実施や指導場面におけるマネジメントの重要性を認識しているのか把握するとともに,臨床経験の違いによって理学療法介入中におけるマネジメントへの不安感に違いがあるのか調査することにした。

【方法】

対象は,本院に勤務する理学療法士(女性11 名,男性17 名,平均年齢27 歳)とし,新人群と中堅群に各14 名割り付けた。調査方法は,自己記入式質問紙法とし,用紙を著者が配布し,回収箱から回収した。調査項目は,5 段階のリッカート尺度(例:とても重要/ 少しは重要/ どちらとも言えない/あまり重要ではない/ 全く重要ではない)を用いて,第1 項目:職場環境におけるマネジメントの重要度,第2 項目:関節可動域練習(他動運動),関節可動域練習(自動運動),筋力トレーニング,荷重練習,バランス練習,歩行練習,歩行,トイレ動作,靴下着脱動作,シャワー動作,階段昇降動作,床上動作の12 項目を設定し,理学療法介入時および日常生活の方法におけるマネジメントの必要性を聴取した。第3 項目:理学療法介入中におけるマネジメントへの不安感を聴取した。さらに,第3 項目の具体的な内容を聴取するため,自由記載欄を設け,不安感の詳細を聴取した。その後,新人群と中堅群においてリッカート尺度で聴取した項目に差があるか確認するため,ウィルコクソンの符号順位検定を有意水準は5% として実施した。また,自由記載の解析は,表記ゆれの統一をした後,形態素解析ソールを用いて名詞と動詞の単語頻度集計表を作成した。

【倫理的配慮,説明と同意】

心身解析研究会倫理審査委員会の承認を得た後(承認番号R:1801),対象者に本研究の主旨,方法,研究協力の任意性と撤回の自由を説明し,同意を得て行われた。なお,連結可能匿名化を実施した。

【結果】

回収率は,100% であった。リッカート尺度で聴取した項目では,第2 項目の筋力トレーニング実施中におけるマネジメントの必要性のみ有意差が認められた(p<0.05)。なお,最頻値は,新人群が「少しは必要」,中堅群は「とても必要」であった。また,理学療法介入中におけるマネジメントへの不安感は,新人群と中堅群に差を認めなかった。単語頻度集計において,新人群では荷重,転倒,外傷,死亡が上位となったのに対し,中堅群では介助,適切,対応,状態が上位を占めた。

【考察】

我々は,中堅群の方が新人群よりも,理学療法介入中におけるマネジメントへの不安感が少なくなるのではないかと想定していたが,本研究結果から中堅群と新人群の間に差が認められなかった。単語頻度の結果を踏まえて考えると,中堅群では危険因子に対する対応策に不安を抱え,新人群では危険因子そのものに不安を抱えており,その質が違う可能性が考えられた。それと同様に,第2 項目の筋力トレーニング実施中に有意差が認められたことは,関節可動域練習での脱臼や荷重練習での転倒等のマネジメントに比べ,筋力トレーニングのマネジメントは,疲労感や遅発性筋損傷などを含み新人が想定しづらいことが考えられる。

【結論】

マネジメントに関わる教育は,新人にのみ適用するのではなく,比較的経験がある中堅群についても内容を変えて実施することが望ましい可能性が示唆された。

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© 2019 日本理学療法士協会
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