理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
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特別講演
次世代への継承
奈良 勲
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p. E-42

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抄録

 1963年に当時の厚生省によって日本初の理学療法士教育課程が開始され,その卒業生に合わせて1965年に理学療法士及び作業療法士法が制定された。その翌年に第1回国家試験実施,同年の7月17日に日本理学療法士協会が創立された。理学療法士誕生から52年が経過したことになるが,日本の理学療法士の国内外に関わる職能・社会,教育・学術部門における発展は顕著である。

 人類700万年の歴史の変遷も現在に至る過程において,数多くの世代によって継承されてきたことはいうまでもない。しかし,その道程は多難であり地球各地で紛争の連続であったが,人類が存続していることを当然の事象として受けとめてはならないと思える。人間社会の秩序は,先人たちの英知と多岐にわたる役割が果たされてきたことに他ならない。つまり,健全な共同体を担保するためには,各世代の複数で複雑な責務が遂行されてきたのである。

 日本の理学療法の歴史は浅く,主に欧米の産物に依存してきた経緯がある。それでも,短い半世紀の間にグローバル的視野を含め,専門職(professions)としての社会的立場が構築され,今や国民に取って不可欠な存在に至っている。とはいえ,世界史上繁栄して衰退した民族や帝国をはじめ,特定の専門職もあることから,己の存在が不滅であるとの妄想を抱くことは賢明ではない。

 さて,現在の12の分科学会は,1990年代初期に設置された7つの理学療法専門領域研究会から派生したものである。これは,理学療法自体も専門分野ではあるが,その対象が拡大してきたことに対処することが目的であり,同時に分科領域に応じた組織的研究プロジェクトを遂行することであった。しかし,後者の目的は必ずしも成果を得ているとはいえないと感じている。それに,加えて分科会会員のバラツキや日本理学療法学術大会の一時中止に鑑みると反省すべき諸点の改革が求められると考える。

 学問とは知識の体系化であり,科学は分類化であるといわれている。その点から,理学療法(学)の細分化(個別化)した体系化は妥当な対応ではあるが,「地域包括ケアシステム」が推進されている現在,現場で求められているのは「総合理学療法」であることを忘れることなく,次世代に継承してゆく理学療法(学)に関わる知恵と文化的遺産を「個別⇔総合」のバランスを保ちながら創生してゆく重要性を提唱しておきたい。

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© 2019 日本理学療法士協会
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