理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-S-2-5
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口述
地域在住の頸髄損傷者におけるADL自立度の変化とその関連要因
清水 健田中 匡市川 眞由美藤縄 道子
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キーワード: 頸髄損傷, 地域生活, ADL
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抄録

【はじめに・目的】

頸髄損傷者のリハビリテーション(以下,リハ)は,障害の特性上,比較的長い期間を必要とする.しかしながら,地域生活の開始後には,リハの実施により自立にいたった動作でも介助を受けるという選択をする例も多く,実生活に即した目標設定は難しい.本研究の目的は,地域在住の頸髄損傷者におけるADL自立度の維持状況を調査し,その関連要因の検討から,リハの目標設定時に考慮すべき因子を探索することである.

【方法】

対象は,障害者支援施設にて2006年4月から2016年6月の間に機能訓練を終了した頸髄損傷者のうち,年齢が65歳未満,運動機能の残存高位がC5からC7,ASIA Impairment Scale がAまたはBに該当する131名とした.対象の基本属性,上肢の残存機能等の障害特性,機能訓練サービスの利用期間(以下,利用期間),利用終了時のADL自立度をケース記録から収集し,また質問紙の郵送により地域生活におけるADLの実行状況を調査した.ADL項目はベッド車いす間の移乗(以下,ベッド移乗),更衣,排便,シャワー浴とした.利用終了時に各動作が自立していた者が郵送調査時点で自立度を維持しているか否かを従属変数とし,他の調査項目を独立変数として,ADL項目ごとに多重ロジスティック回帰分析を行った.

【結果】

調査票の有効回収数は67通(51.2%)であり,内訳は年齢が36.9±11.4歳,男性が55名であった.ADL自立度の維持率は,ベッド移乗が82.3%(51名/62名),更衣が53.8%(28名/52名),排便が70.2%(33名/47名),シャワー浴が56.1%(23名/41名)であった.また多重ロジスティック回帰分析の結果,ADL自立度の維持に関連する有意な変数として,ベッド移乗では上肢の残存機能(OR:0.55,95%CI:0.33-0.95),更衣では年齢(OR:1.12,95%CI:1.03-1.23)と利用期間(OR:1.24,95%CI:1.09-1.41),排便では利用期間(OR:1.13,95%CI:1.02-1.26) が抽出され,上肢機能が良好な者,若年者,利用期間の短かった者の方が自立度は維持されていた.

【考察】

集計結果で自立度の維持率が6割未満であった更衣とシャワー浴は,自己実施と介助を受ける場合との所要時間の差が他と比較して大きい動作である.また解析結果では,自立度維持への関連要因として,従来から動作能力との関連が指摘されている年齢や残存機能のほかに,更衣と排便では利用期間の長さが抽出された.これは,地域生活では介助を受けることとなる動作の自立に向け,長期的リハが行われた影響と解釈ができる.つまり,リハ実施の結果として高い自立度を維持しながら地域生活を送る者が多く存在するが,ケースによっては過剰なリハの継続により早期の社会参加を妨げてしまっていた可能性も推測される.よって,頸髄損傷者のリハにおける目標は,動作の所要時間をふくめた地域生活での実用性も十分に考慮して設定する必要があると考えられる.

【倫理的配慮,説明と同意】

本調査の実施に際し,研究目的,方法,結果発表,および研究協力は自由意思で拒否による不利益はないことについて,詳細な説明を記載した文書と同意書を同封し,署名された同意書の返送をもって同意を得た.また,対象の個々人の情報保護に最大限の努力を払い,データは研究責任者(筆頭演者)が管理した.本研究は平成29年度国立障害者リハビリテーションセンター研究倫理審査委員会の承認(承認番号29-92)を受けて実施した.

なお,開示すべき利益相反状態はない.

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© 2019 日本理学療法士協会
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