主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】ヒトの足部は50以上の関節が存在し多様な運動が生じる中で、歩行や走行の際に無数の接地面に順応するための柔軟性と推進力に抗する程の安定性が要求される。足部の安定化機構としては、WindlassMechanism(以下WM)が挙げられ、母趾背屈により足部の縦アーチが上昇し推進力に寄与するとされるものである。これまでもWMに関して多くの報告があるが、より推進力を要する走行に着目したものや、足部の形態に直接影響を及ぼすと考えられる床反力最大時の足部・母趾の動態に関する報告はほとんどない。本研究の目的は床反力最大時の歩行と走行におけるWMの比較・検討である。
【方法】対象は健常男子学生 7名。課題動作はgait:被験者の快適歩行速度(ave0.81m/sec)、run:2.0m/sec、dash:3.6m/secを各30秒行った。計測には三次元動作解析装置(VICON 社製,100 Hz)と床反力付きトレッドミル(Bertec、1000Hz)を用い、マーカーセットは Plug in Gait Full Body AIとOxford foot modelに従った。解析対象は左下肢の後足部・前足部(縦アーチとする)・母趾の矢状面上の運動とした。各被験者の10立脚期を抽出後100%時間正規化し、各被験者・各条件ごとに加算平均処理を行った。関節角度ピーク(A-peak)は立脚期50%以降から算出した。床反力は垂直成分と前後成分の合力とし、床反力最大時(F-peak)を立脚60%以降で算出した。そこから各関節角度peak(A-peak)と床反力(F-peak)の時差(D-peak)、母趾の関節角度peakと縦アーチのpeakの時差(HLX-peak)を算出した。統計処理はgait、run、dashの3群を比較するためKruscal-walli検定の後、Wilcoxsonの符号付順位和検定を採用し、Bonferroni補正(p<0.016)を行った。
【結果】条件間でD-peakに有意差は認められなかったが、歩行ではF-peak後に後足部の背屈から底屈への運動変化と縦アーチ上昇開始が生じ、走行ではF-peakと同時に関節運動が変化する傾向が示された。HLX-peakにおいても条件間での有意差は認められなかったが、縦アーチ上昇は歩行では母趾背屈と同時もしくは遅延し、走行では母趾背屈と同時に生じる傾向が示された。
【考察】歩行では、F-peakに続いて母趾背屈・アーチ上昇による足部の形態的安定化を図ったことから、歩行時のWMは受動的運動であり床反力を利用した推進への寄与は低い可能性が示唆された。一方走行では、F-peakと同時に安定化を図り、歩行時と比較して関節への外力と筋活動が増大する(S.Dugan 2005)とされていることから、外力に抗するための足部の形態的安定化はWMではなく筋活動の寄与が大きい可能性が示された。
【結論】本研究からWMが立脚後期における推進の力源の土台として機能せず、特に走行では筋活動が力源となっている可能性が示唆された。今後下腿筋の解析や足部の粘弾特性の解析を進めることで、足部機能の基礎データとして理学療法介入の一助になると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、本学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号28875号)。被験者には事前に実験に関する説明を行い、同意書への署名を得た。同意書は筆頭演者所属機関内に鍵付きの保管庫を用意し、他者が解錠することの無いよう厳重に保管した.測定データは匿名化し取り扱い、インターネットに接続しないパーソナルコンピュータに保管、更にログインに際しパスワードを入力するように設定した。