主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
脳磁場記録を行うと,自己のペースによる一側上肢の運動に伴い,運動対側中心部に筋収縮開始と一致してMotor field(MF),筋活動開始後にMovement evoked fields I(MEF I)が観察される.これまでは関節運動を伴った運動による研究が主であり,関節運動の有無がMFおよびMEF Iに及ぼす影響は検討されていない.そこで本研究では,自己のペースで行う手の運動に2つの収縮様式の異なる随意運動時の脳磁場を計測し,MFおよびMEF Iの変化を調査した.
【方法】
対象は健常成人6名(26.3 ± 5.0歳)とし,脳磁界計測には306 ch全頭型脳磁計を使用し,自己のペースにて右示指中手指節関節(MP関節)伸展を伴う右示指伸筋の収縮(以下,関節運動あり条件)とMP関節伸展を伴わない右示指伸筋の収縮(以下,関節運動なし条件)時の脳磁場変化を0.03~200 HzのFilter, 600 Hzの Samplingで計測した.関節運動あり条件では床面から約3 cmのMP関節伸展を行い,関節運動なし条件では右示指をプラスティック板上に固定した状態で右示指伸筋の収縮を行った.両運動条件ともに約10秒に1回の筋収縮頻度とした.運動関連脳磁場の解析はoff-lineにて右示指伸筋の筋活動開始を基準(0 ms)として100回以上の加算平均を行い,Baseline区間は-3000~-2000 msとし,両条件におけるMFとMEF Iの頂点潜時およびその電流源を解析した.電流源の推定には等価電流双極子(Equivalent Current Dipole; ECD)を用いた.
【結果】
筋収縮時間は関節運動あり条件では101.1 ± 22.6 ms,関節運動なし条件では122.9 ± 46.1msであった.両運動条件で筋収縮に関連した脳磁場変化がplanar型センサーにおける運動対側中心部に観察された.全被験者のうち3名においてMFが観察され,その頂点潜時は関節運動あり条件では23.8 ± 9.0 ms,関節運動なし条件では14.8 ± 10.2 msであった.MEF Iは全被験者で観察され,その頂点潜時は関節運動あり条件では114.1 ± 20.7 ms,関節運動なし条件では118.3 ± 10.4 msであった.MEF Iの頂点潜時から算出したECDは運動条件間で同様の位置に推定された.
【考察】
本研究では関節運動の有無にかかわらずMEF Iが観察され,頂点潜時における対応からECDの位置は両条件において同様であった.MEF Iは関節運動時の筋伸張による求心性入力が反映されていることが報告されているが,本研究で関節運動なし条件においてもMEF Iが観察される結果が得られた.以上のことから自己ペースによる運動後に観察される脳磁場変化には,筋伸張による求心性入力以外の要因も関与している可能性が示唆された.
【結論】
関節運動が生じない随意運動においても関節運動が生じる随意運動と同様にMEF Iが観察されることが明らかとなった.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は札幌医科大学倫理審査の承認を得ており(承認番号: 29-2-58),被験者には書面にて実験内容十分に説明し,被験者として協力可能である同意を得た.