理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P6-19
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体幹・下肢筋力と立ち上がり動作能力の関連について
-立ち上がり時の運動戦略に着目して-
菊本 東陽
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抄録

【はじめに、目的】椅子からの立ち上がり動作能力の評価には、30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)に代表されるパフォーマンステスト(量的指標)と運動パターンの評価(質的指標)がある。しかし、個々の筋力とバランス能力との関連を検討した報告は多いものの、徒手筋力計(hand held dynamometer: HHD)で測定した筋力との関連性については不明瞭である。

本研究の目的は、HHDを使用した体幹・下肢の筋力測定、椅子からの立ち上がり動作能力測定を実施し、①体幹・下肢筋力と椅子からの立ち上がり動作能力の関連、②立ち上がり運動戦略に対する体幹・下肢筋力の影響について検討することである。

【方法】対象は、体幹および下肢機能に影響をおよぼす運動器障害や疼痛、脳血管障害の既往のない健常若年者35名(男性13名、女性22名、平均年齢21.3±1.1歳、平均身長164.5±8.3cm、平均体重57.4±10.6kg)、60歳以上の健常高齢者34名(男性5名、女性29名、平均年齢71.1±6.0歳、平均身長151.8±6.4cm、平均体重51.4±9.1kg)とした。

測定は、筋力測定(HHDによる体幹、右下肢筋力測定)、椅子からの立ち上がり動作能力測定(CS-30)、椅子からの立ち上がり動作の運動戦略の測定・評価(ハイスピード撮影機能付きデジタルカメラを使用し撮影)を実施した。

 データ解析は、CS-30と体幹・下肢筋力の因果関係の分析には重回帰分析(ステップワイズ法)を用いた。2条件での立ち上がり動作時の股関節屈曲角度の変化の差の検定には対応のあるt検定を最大速度条件での立ち上がり動作時の股関節屈曲角度変化と体幹、下肢筋力の相関分析にはspearmanの順位相関分析を実施した。いずれも有意水準を5%未満とした。

【結果】

①体幹・下肢筋力と椅子からの立ち上がり動作能力の関連

体幹(体幹伸展・屈曲)、下肢(膝関節伸展・屈曲)筋力(N/kg):若年者(4.0±0.9・2.9±0.8、6.9±2.5・4.5±0.9)、高齢者(5.6±1.1・2.7±0.8、5.2±1.4・3.3±0.9)

CS-30(回):若年者(23.1±6.0)、高齢者(27.6±7.5)

高齢者のCS-30の増減に膝関節伸展筋力は正の影響を与えていた(R20.26、p<.05)が、若年者では認められなかった。

②椅子からの立ち上がり動作時の股関節屈曲角度(°)の変化(快適速度・最大速度)

若年者(19.6±8.3・18.0±5.5)高齢者(15.4±5.7・13.1±5.0)

両群において2条件間の有意差を認めなかった。快適速度から最大速度時にstabilization strategyからmomentum strategyへの移行が確認できたのは、若年者14/22人、高齢者11/21人であった。

【考察】若年者ではCS-30と下肢筋力の関連性を認めなかったことから、CS-30を利用した下肢筋力の評価には、高い下肢筋力を有する者の結果の解釈については検討する必要性のあることが示唆された。運動戦略と筋力の関連については、継続した検討が必要である。

【結論】本研究における知見は、HHDを使用した体幹・下肢筋力測定の応用への一指標となる。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を受け(第28037号)、研究の内容を事前に口頭文書で説明し同意を得ることのできた人のみを対象とした。

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