理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O18-5
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口述
適応的歩行調整能力の学習支援に向けたバーチャルリアリティ環境の構築
-実環境における身体運動特性の再現-
近藤 夕騎福原 和伸樋口 貴広
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抄録

【はじめに、目的】高齢者の中には、状況に応じて方略を瞬時に微調整することが困難になる者がいる(Hackney, 2013)。一般に、こうした行動調整能力は経験を通して改善される側面がある(Adolph, 2000)。しかし、高齢者に対して繰り返し障害物回避をおこなわせるような練習は、上手く衝突を回避できなかった際に痛みや恐怖を体験させる懸念があり、現実的な練習であると言えない側面がある。

こうした問題に対して我々は、バーチャルリアリティ(VR)環境を利用し、隙間通過時の接触回避を練習できるシステムを開発した。これまで、本VRシステムでの接触回避行動が実環境における接触回避行動(隙間通過時の体幹回旋)を再現できているか確認した。その結果、隙間の大きさに応じた調整については高い再現性を得たものの、VRでは余分に体幹を回旋する傾向を示した。そこで本研究では、「できるだけ体幹を回旋せずに通り抜けてください」という制約を与えることで、実環境での接触回避特性に近づくかを検討した。

【方法】参加者は健常成人10名(男性5名、平均年齢24.7±5.9歳)。参加者は体幹前面に対して平行の棒を把持し、2枚のドアで作られた隙間を接触しないように通り抜ける課題を、「最小限の体幹回旋で接触せずに通過する」という制約を設けた上で実環境とVR環境それぞれ実施した。隙間幅は実環境、VR環境ともに7条件(91cmの棒の0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3倍)であった。

従属変数は隙間通過時の体幹回旋角度とした。統計検定として、環境(実環境、VR環境)×隙間幅の2要因分散分析を行なった。実環境下で観察される2つの現象(①隙間が狭くなるほど体幹回旋角度が大きくなること、②一定以上の隙間幅に対して体幹の回旋をせずに通り抜けること)が確認されたかどうかを根拠に、接触回避特性の再現が得られたと判断した。

【結果】環境で主効果がみられ(p<.01)、VR環境では実環境と比較して有意に回旋角度が大きかった。隙間幅の要因にも主効果が認められた(p<.01)。Bonferoni法で多重比較をしたところ、隙間幅の要因において、VR環境では棒に対する0.7倍から1.2倍にかけてそれぞれ有意差があり、1.2倍と1.3倍で有意差はなく、実環境では棒に対する0.7倍から1.1倍にかけて有意差があり、1.1倍と1.2倍で有意差はなかった。このことから、VR環境では、制約を設けることにより実環境下で観察される2つの現象の再現を得られた。

【考察】できるだけ体幹回旋をしないという制約条件下では、VR環境での接触回避行動は実環境での接触回避行動に近づくことがわかった。制約をかけることにより、隙間幅に応じて行動をすることに焦点を当てることができ、VR環境において実環境で生じる接触回避特性を再現できたと考える。

【結論】隙間通過時の接触回避行動を再現するVR環境の構築に成功した。今後、このVR環境での練習後に、実環境の接触回避の精度を高めるかについて検討していく。

【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として、ヘルシンキ宣言に準拠し、対象者には研究の趣旨と内容、得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと、および個人情報の漏洩に注意することについて説明し、理解を得た上で協力を求めた。また、研究への参加は自由意志であり、対象者にならなくても不利益にならないことを口答と書面で説明し、同意を得て研究を開始した。なお、本研究は首都大学東京大学院の倫理委員会の認証を得て行った。

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© 2019 日本理学療法士協会
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