主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
脳性麻痺児において痙縮は最も多くみられる症状であり、関節拘縮や疼痛を誘発し、日常生活動作にも影響を及ぼすことが知られている。近年、脳性麻痺児における痙縮の病態生理は、脊髄反射などの神経機構だけではなく、生体力学的な要因も重要視されるようになってきた。このことから、末梢における神経筋活動や筋自体にも焦点をあてて解明していく必要がある。しかし、脳性麻痺児における筋活動と歩容、骨格筋量との関連を調査した報告は見受けられない。そこで、本研究では脳性麻痺児における下肢の筋活動と歩容および骨格筋量との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は両下肢痙性麻痺の脳性麻痺児14名(男児6名、女児8名;11.3±3.6歳;GMFCSレベルⅠ:6名、Ⅱ:6名、Ⅲ:2名)とした。歩行データは三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社)を用いてPlug in Gaitモデルにて計測した。表面筋電計バイオモニターME-6000(Mega社)を用いて歩行時の左右の大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋の8筋の筋活動を計測した。またマルチ周波数体組成計MC-780A(TANITA社)を用いて四肢筋量を計測した。歩容の指標としてキネマティクスデータからGait Deviation Index(以下、GDI)を、歩行能力の指標として歩行速度、ケイデンス、身長で補正した歩幅及び重複歩距離を求めた。筋活動の指標として、筋電図波形ハイパスフィルターおよび全波整流化を行った後、1歩行周期での最大値で正規化を行い、1歩行周期における各筋の筋活動量(IEMG)を求めた。また、全身筋力の指標として握力を、骨格筋量の指標として下肢骨格筋量指数(以下、下肢SMI)を求めた。それぞれの値はすべて左右で平均した。統計解析は、Pearsonの積率相関分析を行った。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
前脛骨筋のIEMGのみ下肢SMIと有意な負の相関が認められた(r=-0.56,p<0.05)。またすべての筋のIEMGはGDIと握力とは有意な相関は認められなかった。下肢SMIはGDIと有意な正の相関(r=0.61,p<0.05)および握力と有意な正の相関が認められた(r=0.88,p<0.01)。歩行速度、ケイデンス、歩幅、重複歩距離はIEMG、GDI、握力、下肢SMIと有意な相関は認められなかった。
【結論】
下肢筋量が減少している程、1歩行周期全体の前脛骨筋の筋活動量が増大することが示された。このことから、下肢筋量の減少は神経筋活動を活発化させ、発火頻度を増大させることで発揮筋力を補っている可能性が示唆された。前脛骨筋のみ下肢SMIと相関が認められた理由として、脳性麻痺児における足関節底屈筋群の痙縮の影響により、前脛骨筋の活動が抑制されているためではないかと推察された。今後は筋活動量だけではなく骨格筋の質にも焦点をあてて調査していく必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
愛知県三河青い鳥医療療育センター倫理委員会にて承認を得た(承認番号:29002番)。