主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
研究の目的は,10歩以上の独歩が可能であるが日常生活場面で実用的独歩が困難な脳性麻痺児と実用的独歩が可能な脳性麻痺児の機能障害レベルおよび動作レベルの因子を比較し,実用的独歩に影響する因子を明らかにすることであった.なおこの研究は,科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金 挑戦的萌芽研究 課題番号 26560292)の研究費で実施された.
【方法】
対象児は,8歳から19歳の痙直型両麻痺脳性麻痺児(GMFCSレベルⅡ~Ⅲ)で,室内で10歩独歩できる者であった. 実用的歩行レベルを,①室内の50%以上を四つ這いで移動する,②室内及び屋外平地移動時に50%以上独歩を行うが,壁などに手をつく必要がある時がある,③室内及び屋外平地移動時に,壁などに手をつくことなく独歩で移動できる,の3つに分類した.対象児6名(各歩行レベル2名)に対するパイロット研究によって明らかになった実用的歩行獲得に影響している可能性が高い因子である筋力(股関節伸筋,膝関節屈筋,足関節底屈筋), SCALE[下肢の選択的運動コントロール評価法](足関節,距骨下関節),片脚立位能力,後方歩き能力のデータを,国内11施設の痙直型両麻痺脳性麻痺児70名(平均年齢13歳11ヶ月±3歳3ヶ月,8歳0ヶ月~19歳6ヶ月,男性39名,女性31名,平均体重41.0kg±12.1kg,GMFCSレベルⅡ 51名,Ⅲ 19名,実用的歩行レベル①10名,②29名,③31名)より収集した.統計学的解析には,IBM SPSS Statistics 23を使用した.
【結果】
股関節伸筋筋力は実用歩行レベル①と③の間(p<0.001)及びレベル②と③の間(p<0.001)に,膝関節屈筋筋力はレベル①と③の間(p<0.001)及びレベル②と③の間(p<0.001)に,足関節底屈筋力はレベル①と③の間(p<0.020)に有意差があった(一元配置分散分析).足関節SCALE(p<0.013),片脚立位(p<0.001),後歩き(p<0.001)において,実用的歩行レベル3群の中に違いがあることが明らかになり,実用的歩行レベルが高いほど足関節SCALE,片脚立位,後歩きの得点が高かった.距骨下関節SCALEはp=0.061で傾向は示されたが,有意差は示されなかった(Kruskal-Wallis検定).筋力(股関節伸展筋,膝関節屈筋,足関節底屈筋)を独立変数として,多重ロジスティック分析を実施した結果,膝関節屈曲筋力が実用的歩行レベル②と③の違いに影響を与えていることが示唆された.膝関節屈曲筋力による実用的歩行レベル②と③の判別の的中率は,80.8%であった.
【考察】
実用的歩行レベルに最も影響している因子は膝関節屈筋の筋力であったが,膝関節屈筋の筋力が強いことで直接的に実用的独歩機能が向上するとは考えにくい.膝関節屈筋の筋力が発揮しやすいことは,下肢の選択的運動コントロール能力が高いことを表し,その結果として独歩機能が高くなっていると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
大阪保健医療大学研究倫理委員会からの承認(承認番号:大保大研倫1703)を得て研究を実施した.データ提供を受けた対象者には,データの使用を拒否できる機会を保障するために,その方法を記載した書面を渡し説明を行った.また,開示すべき利益相反(COI)はない.