抄録
口唇口蓋裂患者に対する補綴治療は,審美性や発音,咀嚼機能の回復といった一般補綴治療と共通の目的に加え,歯科矯正治療後の歯および歯槽弓の後戻りの防止,上下顎咬合負担能の均等化,残遺孔を伴う症例に対する瘻孔閉鎖なども目的として行われる。東京医科歯科大学歯学部附属病院顎義歯外来では,1979年に顎口腔機能治療部として発足して以来約35年にわたり,顎顔面補綴治療の一分野として口唇口蓋裂患者の補綴治療を行ってきた。今回外来発足初期に,固定性または可撤性ブリッジおよび可撤性の床であるオブチュレータ,プランパーにて最終補綴治療を行った口唇口蓋裂患者4名について,25年以上にわたり経過観察することができたので報告する。
症例1:左側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,犬歯,左側上顎第一小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装冠による固定性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータを装着。31年間経過観察。
症例2:両側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,第一小臼歯,右側上顎犬歯,左側上顎第二小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装冠による固定性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパーを装着。29年間経過観察。
症例3:両側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,犬歯,左側上顎第一小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装コーヌステレスコープ冠による可撤性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパーを装着。29年間経過観察。
症例4:左側口唇口蓋裂。右側上顎中切歯,側切歯,左側上顎犬歯,第一小臼歯を支台歯とした陶材焼付鋳造冠による固定性ブリッジおよび口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパー装着。26年間経過観察。
4症例とも歯列の後戻りは認められず,補綴装置は現在まで長期間有効に機能している。