日本口蓋裂学会雑誌
Online ISSN : 2186-5701
Print ISSN : 0386-5185
ISSN-L : 0386-5185
ムーシールドが低年齢口唇裂・口蓋裂矯正患者に与える影響
清水-山木 貴子岡藤 範正中塚 久美子柳澤 宗光山田 一尋栗原 三郎
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 33 巻 1 号 p. 12-24

詳細
抄録

従来,反対咬合症例に対して,チンキャップや上顎前方牽引装置などの矯正治療装置が使用されてきているが,それらの装置を低年齢小児に用いると頭蓋変形や顎関節に影響を及ぼす可能性がある.そこで,低年齢から快適に使え,前歯部反対咬合を改善する装置として機能的顎矯正装置の一つであるムーシールドが応用されてきている.これは,外力による顎整形力を用いることなく,筋機能の調和を求めることによって,原因論的に不正咬合を治療していく装置である.これまでに,乳歯列反対咬合にムーシールドを応用した症例発表は見られるが,口唇裂口蓋裂患者に応用したという報告は見られない.口唇裂口蓋裂患者は,口唇の緊張が強く口唇圧が強いため,上顎骨の劣成長による反対咬合が多数見られ,本装置が非常に有用であると考えられる.そこで我々は松本歯科大学歯科矯正学講座に来院した,口唇裂口蓋裂患者2名について2年間本装置を応用した結果を検討した.
症例15歳6カ月女児,オーバージェットOmm,オーバーバイトOmm,ターミナルプレーンメジァルステップタイプ,ANB4.0°切端咬合可診断左側口唇口蓋裂切端咬合である.
症例25歳7カ月女児,オーバージェット-lmm,オーバーバイト4mm,ターミナルプレーンメジアルステップタイプ,ANB1.0°切端咬合不可診断口蓋裂上顎骨の劣成長と下顎骨の過成長による反対咬合であった.
症例1においてはANBが4.0°から5.5°に増加し,骨格的な改善がみられ,上顎骨の前下方成長と下顎骨のわずかな時計回り方向の回転を認めた.治療開始2年半後には右側中切歯のみであったがオーバージェットの改善もみられた.症例2においてはANBが1.0°から2.0°に増加した.また上顎骨の下方成長が確認され,下顎骨の時計回り方向の回転を認めた.
2症例とも上下顎骨の位置関係が改善され,ムーシールドはカリエスや歯の萌出障害をみとめることがなく低年齢から使えるという点で非常に有用であると考えられた.

著者関連情報
© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
前の記事 次の記事
feedback
Top