臨床神経学
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短報
周期性発射が持続した非けいれん性てんかん重積状態の離脱の評価にMRI arterial spin labelingが有用だった1例
斉藤 聡志飯嶋 睦関 美沙吉澤 浩志北川 一夫
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2022 年 62 巻 1 号 p. 49-52

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要旨

75歳男性,自宅で転倒しているところを発見された.側頭葉てんかんが既往にありレベチラセタムを内服していた.意識障害,左顔面にミオクローヌスを認めたため,てんかん重積状態と判断した.脳MRI FLAIR・拡散強調画像で右大脳皮質に高信号域,MRAで右中大脳動脈の拡張があり,右中大脳動脈領域の過灌流が示唆された.脳波で右半球性に周期性発射を認めた.意識障害改善後も周期性発射は残存したが,MRI arterial spin labeling(ASL)では過灌流を認めず,非けいれん性てんかん重積状態を逸脱したと判断した.MRI ASLはてんかん重積状態の鑑別に有用だった.

Abstract

A 75-year-old man with a history of temporal lobe epilepsy (treated with levetiracetam) was transferred to our hospital because of loss of consciousness. At admission, he was drowsy and exhibited myoclonus on the left side of face. We established a diagnosis of status epilepticus and started treatment with levetiracetam, fosphenytoin, and midazolam. FLAIR and DWI showed hyperintensity in the right cerebral cortex. Electroencephalography (EEG) showed lateralized periodic discharges (LPDs) at the right hemisphere, indicative of non-convulsive status epilepticus (NCSE). He regained consciousness after treatment with anti-epileptic drugs but showed persistent LPDs in EEG. MRI arterial spin labeling (ASL) showed normal perfusion in the right hemisphere; therefore, he was deemed to have recovered from status epilepticus and transferred to the rehabilitation hospital. MRI ASL is useful for diagnosing recovery from NCSE irrespective of sustained periodic discharges on EEG.

はじめに

非けいれん性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus,以下NCSEと略記)の脳波診断はSalzburg Consensus Criteria for Non-Convulsive Status Epilepticusが用いられる.2.5 Hzより多くのてんかん性異常(棘波,多棘波,鋭波,棘徐波複合)が出現,もしくは2.5 Hz以下でも抗てんかん薬の静脈注射後に脳波と臨床所見が改善する,空間的時間的変化がみられる,微細な臨床症状を伴うことのいずれかが含まれる場合をNCSEの所見としている1.Lateralized periodic discharges(LPDs)については古典的に二つに分類されている.LPDsに律動性発射を伴っている場合,すなわち従来のPeriodic lateralized epileptiform discharges (PLEDs)-plusは発作との関連があり,律動性発射を伴わないLPD-proper(PLEDs-proper)は発作間欠期が示唆されている2

本症例では意識障害が改善後もLPDsが継続していた.脳波所見と脳MRIのarterial spin labeling(ASL)を用いてNCSEであるか鑑別を行った.

症例

症例:75歳,男性

主訴:意識障害

既往歴:40歳アルコール性膵炎,41歳糖尿病,67歳側頭葉てんかん,67歳ミクリッツ病.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:67歳時に意識減損発作があり,側頭葉てんかんと診断されレベチラセタム500 mg/日で加療されていた.脳MRIで右優位の海馬萎縮を指摘されていた.2020年7月下旬,自宅で倒れているところを発見され当院に搬送された.体温37.8°C,呼吸28回/分,脈拍123回/分,血圧125/80 mmHg,SpO2 85%(O2 10 l/分)だった.JCS 300,GCS 6,左共同偏視,左顔面にミオクローヌスを認めた.四肢に明らかな麻痺はなかった.動脈血液ガス所見はPH 7.349,PaCO2 37.0 mmHg,PaO2 57.6 mmHg,HCO3 19.9 mmol/l,Anion gap 21.3 mmol/l,乳酸5.4 mmol/lだった.血液生化学検査所見では,WBC 13,600/μl,AST 133 U/l,ALT 51 U/l,Cr 2.33 mg/dl,BUN 30.9 mg/dl,CK 2,179 U/l,CK-MB 28 U/l,CRP 0.52 mg/dl,IgG4 750 mg/dl,血糖179 mg/dl,HbA1c 7.4%と高値で,アンモニア46 μg/dl,電解質は正常だった.髄液検査では初圧90 mmH2O,細胞数0/mm3,蛋白24 mg/dl,HSV-DNA陰性だった.頭部CTでは明らかな異常所見を認めなかった.側頭葉てんかんの既往,左共同偏視,左顔面のミオクローヌスからてんかん重積状態が疑われた.ジアゼパム,ホスフェニトインを投与するも改善せず,ミダゾラムを持続投与し人工呼吸器管理を開始した.脳MRI(発症第2日目)のFLAIR画像および拡散強調画像で,右大脳皮質に限局して高信号域を認めた.MRAでは,右中大脳動脈の拡張あり過灌流が示唆された(Fig. 1).発症第3日目の脳波では,基礎波は左右差のないθ帯域の徐波で,右半球にLPDs-properが0.5~1.0 Hzで認められた.空間的時間的変化を伴うrhythmic delta activityはなかった(Fig. 2).また,人工呼吸器管理中に両眼瞼のミオクローヌスおよび左眼球偏位がみられたため,レベチラセタムを2,000 mg/日に増量しラコサミド100 mg/日を追加した.発症第12日目,右半球にLPDsは持続していたが頻度の増加はなく,眼瞼のミオクローヌスおよび左眼球偏位は消失したため,ミダゾラム持続投与を中止した.発症第15日目,人工呼吸器管理から離脱した.発作の再発はなく経過し,発症第30日目には,簡単な文章を書くことが可能な程度に意識は改善した.脳MRIの拡散強調画像およびFLAIR画像で右大脳皮質に高信号域が残存し,ASLでは右大脳半球の灌流は低下していた(Fig. 1).脳波(発症第38日目)では,右半球にLPDsは残存するも頻度は0.25~0.5 Hzまで減少し,周波数はほぼ一定でその他のepileptiform dischargeの出現はなかった(Fig. 2).杖歩行可能となりリハビリ病院に転院した.

Fig. 1 MRI images obtained on day 2 and day 30 after admission.

A: DWI image on day 2 shows hyperintensity in the right cortex (arrows). B: FLAIR image on day 2 shows hyperintensity in the right cortex (arrows). C: MRA performed on day 2 shows extending of the middle cerebral artery (arrows). D: DWI image on day 30 shows hyperintensity in the right cortex (arrows). E: FLAIR image obtained on day 30 shows hyperintensity in the right cortex (arrows). F: MRA performed on day 30 shows normalization of the middle cerebral artery. G: Arterial spin labeling shows no signs of hyperperfusion.

Fig. 2 Scalp electroencephalography showing lateralized periodic discharges (LPDs) on day 1 and day 38 after admission (longitudinal bipolar montage, high cut filter: 120 Hz, time constant: 0.3 sec).

A: EEG shows right LPDs (frequency: 0.5–1.0 Hz) on day 1. B: EEG shows right LPDs (frequency: 0.25–0.5 Hz) on day 38.

考察

外来ではレベチラセタム500 mg/日で側頭葉てんかんのコントロールは良好だった.脳波および脳MRI所見からてんかん重積状態の首座は右大脳半球皮質と考えられた.本例のてんかん重積状態の要因として,アルコール多飲歴,糖尿病が挙げられる3.また,ミクリッツ病を併存しており入院時のIgG4は高値だった.ミクリッツ病にてんかんを発症した報告はなかったが,頭蓋内占拠性病変やpachymeningitisを伴うIgG4関連疾患のてんかん発症例が報告されている4.本例では脳MRIで占拠性病変や硬膜肥厚はなかった.髄液所見も正常で免疫抑制療法を行わずに症状が改善したことからも,自己免疫性てんかんの可能性は低いと考えられた.レベチラセタムの血中濃度の有用性については一定の見解に至っていないが,小児では治療域20~30 μg/mlが安全量とされている5.一般に成人ではレベチラセタムの維持量は1,000~3,000 mg/日とされている.本例のレベチラセタムの量は500 mg/日であり,投与量が少なかったことも原因の一つだったかもしれない.

てんかん重積状態のMRI所見では,皮質に限局してDWI,FLAIRで信号変化6やMRAで血管拡張を認められることがある7.近年,てんかん発作の診断にMRI ASLの有用性が報告されている.Shimogawaらは,発作時のASLでは15例のうち全例で過灌流を認め,そのうち10例はてんかん発作を引き起こした焦点とASLの局在が一致したと報告している.またNCSE治療開始14日間のASLの時間経過を追っており,11例中8例でASLの過灌流は消失した8.本例では入院時にASLは未施行だったが,MRAで右中大脳動脈が拡張しており過灌流が示唆された(Fig. 1).意識レベル改善後のASLでは過灌流を認めなかったため,てんかん重積状態から改善していたと考えられた.

NSCEの脳波所見で,1.0 Hz未満で速波や変動を伴わないPDsは発作間欠期の異常とされる9.本例の発作時の脳波所見は0.5~1.0 HzのLPDs-properだったが,臨床症状を伴っていたためNCSEの診断基準に合致していた1.本例では,意識レベルが改善した後もLPDs-properが一定の周波数で残存していた.てんかん発作後のLPDsは皮質過敏性による影響と考えられている10.発症第30日目のASLでは右大脳半球は低灌流を示しており,臨床症状が改善後もLPDsが継続していた機序は,てんかん重積状態により生じた急性の破壊性病変による結果と推察した.

結語

本例ではNCSE後にもLPDsが継続したが,NCSE逸脱の判断に脳波とMRI ASLの組み合わせが有用だった.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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