未知顔の再認記憶に及ぼす表情の効果について,意図記憶課題を用いた伊藤ら(2003,日心)は,同画像再認条件における怒り表情の優位性を,偶発記憶課題を用いた木原ら(2003,日心)は,符号化時の喜び表情の優位性が異表情再認条件で顕著であることを見出していることから,喜び表情と怒り表情とでは異なる心的機制が作用している可能性が考えられる。そこで本研究では,学習時に喜び表情または怒り表情を提示し,再認時に学習した人物または未学習人物の中性表情に対してRemember-Know-Nothing判断を求め,意図記憶条件と偶発記憶条件とを比較することにした。IRK手続きに基づき分析した結果,意図記憶課題ではR反応で怒り表情の優位性が,偶発記憶課題ではR・F反応に関わらず喜び表情の優位性が認められた。特定の表情の処理の優位性は,実験参加者の主観的な検索意識の状態によって異なることを示した。