表情と視線方向は他者との社会的コミュニケーションにおいて重要なシグナルであり,また他者の顔を記憶する際に有用な手がかりであると考えられる。本研究において,我々は顔の再認記憶における視線方向の影響が顔の示す表情によって異なるか否かを検討した。3つの実験を通して,怒り顔の再認記憶においては,直視の顔の方が逸視の顔よりも成績が良いのに対し,笑顔においては,視線方向の影響を受けないことが明らかになった。我々に対して向けられた怒り顔は,我々にとっての潜在的脅威を示すため,他の者に向けられた怒り顔に比べてより強く符号化されるのではないか。また,逆に,笑顔の人物を記憶することは彼らの注意の方向に関わらず潜在的報酬となりうるのではないかと考えられる。