絶対音感は、外部からの参照枠を与える音なしに音楽的な音の高さを同定することができる能力、とされる。絶対音感保有者の音高知覚には、音楽的音高のカテゴリーとラベルとの連合が必要であると考えられているが、連合の過程の詳細は明らかにされていない。日本の一般的な音楽教育で使用されるイタリア語の音名体系では、白鍵音と黒鍵音でラベルの質が音声的に異なる。本研究ではこの違いが音高同定にもたらす影響を検討するため、白鍵音刺激に隣接する白鍵音と黒鍵音へのエラーを分析した。その結果、絶対音感保有者では、音声的ラベル境界のない黒鍵音側へのエラー率が、音声的ラベル境界のある白鍵音側へのエラー率よりも高かった。また、音声モードを活性化させやすい条件で、音声的に類似したラベルの音名へのエラー率が高かった。これらの結果は、絶対音感保有者が音声的符号化が可能な白鍵音のカテゴリーで音高を符号化していることを示唆する。