抄録
“和也は知ったかぶりをするが,欲がない”のように,逆接表現を伴う節の中でネガティブな特性に言及すると,順接表現で表現した場合(“~知ったかぶりをし,~”)よりも,人物に対する好ましさの評価が高くなることがわかっている。文中で言及される特性の内容は接続表現のタイプを通して同一であったので,評価の違いは各表現が促す談話焦点の違いから生じるものと考えられる。本研究では,談話焦点の効果の所在を明確にするため,逆接表現の中で言及される特性の評価を調べた。この目的のため,人物全体の好ましさではなく,具体的な特徴の好ましさについての評定を求めた。実験の結果,ネガティブ特性,ポジティブ特性ともに,逆接表現を用いた場合に好ましさの評価が高くなるといったパターンは見られなかった。一方,特性への言及順序の効果が見られ,後の方に言及した場合に特性の価がより強調されることが明らかになった。