日本認知心理学会発表論文集
日本認知心理学会第6回大会
選択された号の論文の132件中1~50を表示しています
口頭発表1A:加齢・支援
  • 原田 悦子, 森 健治, 須藤 智, 熊田 孝恒, Healey Karl, Goldstein David
    セッションID: O1A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    健康な高齢者においても認知的加齢は日常生活に様々に影響を及ぼしている.本研究は意思決定傾向としての追及者‐満足者尺度(日本版)をとりあげ,加齢との関係およびAIST版認知機能テスト6項目との関係を検討した.高齢者95名(63-83才)を対象とした分析の結果,1)一般的態度としての追及者得点は年齢および教育年数と正の相関を示したのに対し,消費行動的追及者得点はいずれとも関係を示さなかった,2)一般的追及者得点は,課題交替テスト並びに行動系列課題の得点と正の相関を示したが,視覚探索型課題とは関連性が見られず,また消費行動的追及者得点はいずれの認知テスト得点とも関係を示さなかった.これらの結果と同調査の若年層との比較分析(Harada, et.al.,2008)から,一般的態度としての追及者的態度は認知制御能力との関係が存在すると共に,加齢との関係性は消費行動的追及者得点とは異なることが示された.
  • 渡部 諭, 澁谷 泰秀
    セッションID: O1A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    本研究は高齢者に焦点をあてたフレーミング効果の特性に関する分析研究である。高齢者(65歳以上)と非高齢者(64歳以下)を比較するために,フレーミング効果評価の一連の頻度分析が行われた。フレーミング効果の評価にはWang(1996)の新しい定義が用いられた。非高齢者群においてはすべての課題でフレーミング効果が観察された。一方,高齢者群では全くフレーミング効果が観察されなかった。ポジティブ・フレームにおいてはリスクが最大の課題に例外が見られたが,利得の増加と共にリスク回避比率が増大する傾向を示した。また,ネガティブ・フレームにおいては高齢者群のリスク回避比率は非高齢者群に比べ全ての課題において有意に高かった。この結果を受けて,やさしいベイジアンによるアプローチとプロスペクト理論の修正適用に関しての考察が行われた。さらに,本研究が用いた事後的調査法に起因する探索的な研究特性の限界についても考察が試みられた。
  • 大型デジタルテレビのユーザビリティテストから
    須藤 智, 佐藤 稔久, 熊田 孝恒, 北島 宗雄, 鈴木 義章, 本宮 志江, 鹿志村 香
    セッションID: O1A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    高齢者は,情報家電機器の操作で様々な困難を示す場合がある。高齢者の認知特性の個人差は大きく,それぞれ異なった特性のもとでインタフェースを操作している。そのため困難さの原因を明らかにするためには,個人の認知特性を考慮する必要がある。そこで本研究では,情報化されGUIを備えたテレビである大型デジタルテレビを用いて,高齢者の認知特性の個人差によって生じる操作過程の差異を検討した。高齢者159名に対してAIST式認知的加齢検査を実施し,注意,作動記憶,遂行機能について1機能のみが低下している参加者,および,全機能に低下がない参加者を抽出した。これらの参加者群に対してユーザビリティテストを実施し,リモコン操作ログと発話ログを取得した。その結果,遂行機能低下群のみが,情報機器特有のGUIメニューボタンの操作に迷いやすく最適な操作系列を構築できないなど,各認知機能の低下群に特徴的な操作行動が明らかになった。
  • 寺澤 孝文, 岩本 真弓
    セッションID: O1A-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    単発的なテストのみで学力を推定する従来のテスト技術と異なり、学習内容の一つ一つに関して何度もなされる学習イベントの生起タイミング、学習とテストのインターバルなど、膨大なイベントの生起を学習内容ごとに詳細に規定できるスケジューリング技術(マイクロステップ技術)が確立され、それを用い、成績の時系列変化を個人差が明確に描き出させる精度で測定できるようになった(寺澤・太田・吉田,2007)。さらに、個人の成績変化を、個別にフィードバックすることも可能になった。この技術を導入したe-learningシステムを利用し、完全に自宅にひきこもった子どもの学習支援を半年以上にわたり実施した結果、極端に学習意欲が低かった子どもが、驚異的なペースで自ら進んで学習を行うように変容した。自分の学習の成果を客観的なデータとしてフィードバックする学習支援が、学習意欲を確実に向上させることが明らかになった。
口頭発表1B:知覚・認知
  • 笹岡 貴史
    セッションID: O1B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    近年,能動的に物体を回転させて景観の変化を観察することで,後の物体認識が促進されることが報告されている(Harman et al, 1999; 笹岡ら, 2005).このことは,物体認識における運動系の関与を示唆しているが,認識の促進に実際に運動を行うことが重要なのか,単に能動性が重要なのかについては明らかになっていない.そこで本研究では,物体の景観を観察する際,手の運動と物体の回転方向が一致する条件と一致しない条件間で,認識の促進効果を比較した.その結果,前者の条件で,より大きな促進効果が得られたことから,認識の促進には実際に手で物体を回転させるのと同様に手と同じ方向に物体が回転することが重要であると考えられる.また,手の運動と物体の回転方向が一致する条件で,認識の促進に回転の正負に対する非対称性が見られた.以上の結果は,認識の促進に運動系が強く関与していることを示唆している.
  • 芦澤 充, 乾 敏郎
    セッションID: O1B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    本研究では,心的回転を自己中心座標で表現された物体の心的イメージが自己の仮想的な運動指令によって回転される認知過程であり,頭頂葉が重要な役割を果たしていると考えてモデル化を試みた.モデル1では,物体軸の三次元的勾配に選択的なニューロン,運動速度に選択的なニューロン,運動系の信号によって出力が調節されるニューロンといった,いずれも頭頂葉に存在が示唆されているニューロンをモデル化し,シミュレーション実験によって,ニューロン集団の活動パターンで表象された三次元空間上のスティックの勾配が,与えられた回転速度に応じて徐々に変化する過程を再現できた.この結果は,前述の仮説を支持するものである.また,モデル1を拡張したモデル2では,自己の運動情報と,それに応じて変化するスティックの二次元的勾配情報の統合により,スティックの三次元的勾配を知覚する認知過程を再現できた.
  • 事崎 由佳, 岩崎 祥一
    セッションID: O1B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    この研究では、発話課題での注意の切り替えがそれに続くタスク・スイッチング課題に与える影響を調べた。発話課題はランダムに英語か日本語で数字を読む条件と、一定の回数を英語もしくは日本語で数字を読む条件から構成されていた。 実験参加者は、予めアンケート調査によって主観的幸福度の高い学生26名と低い学生25名を選んだ。タスク・スイッチング課題として、色名呼称と単語の読みの切り替え課題を用いた。実験結果は、2つの切り替え課題を交互に行うと、非切り替え条件(英語あるいは日本語で数字を読む)との組み合わせに比べ、特に主観的幸福度の低い群で成績の改善の程度が低くなった。
  • 有賀 敦紀, 河原 純一郎, 渡邊 克巳
    セッションID: O1B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    高速逐次視覚呈示した文字系列中に1000msの時間的な空白(中断)を挿入すると,中断直後で標的同定率が低下する(有賀・河原・渡邊,2007).この結果は,高速呈示状態に対して一旦調節された注意が,系列の中断によって初期状態に戻されたためであると考えられる.有賀らは,中断を挟む文字系列を一連のランダムドット系列に重ねて呈示すると,中断後も注意が維持されることを示した.本研究は,高速逐次系列の連続性の有無を操作し,注意の維持が系列の連続性に依存するのかを調べた.まず,文字系列とそれに重ねて呈示されるランダムドット系列が完全に同期していなくても,注意が維持されることを示した.しかし,中断期間のみにランダムドット系列を呈示すると,中断後の標的同定率は低下した.これらの結果は,注意を維持するためには中断の前後の系列が連続している必要があることを示唆している.
  • 静視力・瞬間視力・知覚の範囲・眼球運動制御との関連性
    吉田 弘司
    セッションID: O1B-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    動体視力という概念は,スポーツや交通において頻繁に論じられるが,心理学においては明確な概念でなく,測定法も定まっていない。そこで本研究では,回転式視力検査盤を開発した。実験1では,回転視力盤によって測定した動体視力と,静視力,瞬間視力(視覚反応時間),知覚の範囲の課題成績の関連を見た。その結果,動体視力と瞬間視力,知覚の範囲の3課題が,共通した動的な視覚能力を測定していることがわかった。実験2では,実験1において高い動的視覚能力を示した参加者と,低い能力を示した参加者との間で,眼球運動制御の能力に違いがあるかどうかを,標的追視課題と視覚探索課題を用いて調べた。その結果,動的視覚能力は眼球運動制御とは関連しないことがわかった。これらのことから,動体視力を測定するといわれている種々の課題は,おそらく,視覚的作動記憶のスパンやそれに対する中央制御部の能力を測定しているのではないかと考えられた。
口頭発表2A:記憶1
  • 川口 潤, 山田 陽平, 堀田 千絵
    セッションID: O2A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    実際には提示されていない関連のあることがらを間違って想起するというフォルスメモリに関する現象は,DRMパラダイムを含めて多くの研究で示されてきた.一方,どのようにすればフォルスメモリを低減できるかといった側面の研究も進められている.それらの要因の中で,示差性(distinctiveness)は重要な要因であると考えられる.本研究は,運動行為は,内容としては意味的に関連していても,行為そのものが異なっていれば,示差性を高める要因として働くのではないか,という仮説を検証するために行った.「サンドイッチを作る」という一連の行為のビデオに関する記憶実験の結果,行為を単に観察していた場合よりも実際に行なった場合の方が,フォルスメモリが減少することが明らかとなった.このことは,行為を遂行することによる示差性の向上が,記憶成績を高める原因の一つであると考えられた.
  • 動作の大きさと参加者間・内要因の検討
    加地 雄一, 仲 真紀子
    セッションID: O2A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    学習時に書記の動作をすることが記憶成績に及ぼす影響について,動作の大きさと参加者間・内要因を操作して検討した。学習条件として,腕で身体の前方に大きく空書する空書大条件,人差し指で机に小さく空書する空書小条件,身体を動かさない空書なし条件の3条件を設けた。記銘材料は2桁数字のリストであった。実験1は,学習条件を参加者間要因とし,24名の参加者を対象に行った。その結果,学習条件間に有意な差は見られなかった。実験2は,学習条件を参加者内要因とし,21名の参加者を対象に行った。その結果,空書大条件が空書小条件,空書なし条件を上回り,空書小条件は空書なし条件を上回る傾向が見られた。これらの結果から,(1)書記の動作によって記憶成績が向上するには,学習条件が被験者内要因の場合(実験2)のように,“書く・書かない”が意識される必要があること,(2)書記の動作は大きい方がより効果をもたらすことが示唆される。
  • 水原 啓暁, 山口 陽子
    セッションID: O2A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    複数の周波数での振動子ダイナミクスの協調は異なる脳皮質部位において表象された情報統合を実現する戦略の一つであり,記憶形成とのかかわりにおいて注目されている.本研究では,空間的に分離した脳皮質部位においてγ波により表象される情報が,θ波の特定位相で統合されることにより,陳述記憶の保持が実現されていることを示すために,新規な風景に関する記憶課題を遂行中の脳波計測を実施した.その結果,左前頭腹外側電極において観察されるθ波の特定位相において,右前頭腹外側電極および左前頭背外側電極において観察されるγ波が記憶保持中に増加することが明らかになった.このことは,空間的に分離した皮質部位においてγ波により表象されている新規風景に関する情報を,θ波の特定位相において同時に活性化することにより,これらの情報統合を実現していることを示唆している.
  • 日用品500個を用いた検討
    鍋田 智広, 楠見 孝
    セッションID: O2A-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    我々の記憶容量が膨大であることは古くから知られている。例えば,多くの項目が呈示されても被験者は高い割合で正確に再認することができる。しかし,この実験結果は視覚以外のモダリティではまだ明らかにされていない。そこで本研究では触覚における記憶容量をとりあげ,その学習モダリティへの固有性と,記憶容量に関するメタ記憶とについて検討した。実験では,被験者に100項目もしくは500項目の日用品を触覚学習させた後に触覚あるいは視覚で再認テストを行い,その後被験者自身の再認成績を推測させた。その結果,どちらの実験においても高い再認成績が示されたものの,触覚テストの方が視覚テストよりも再認成績が高く,かつ再認成績の推測も正確であった。これらの結果は,触覚の記憶容量とそのメタ記憶とが,触覚に固有の記憶に依存することを示唆している。
口頭発表2B:感情1
  • 松尾 太加志
    セッションID: O2B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    松尾(2007)では,追従する動きに対して生き物らしさに影響を与える変数として,遅れ時間と距離について検討した.松尾の実験では4つの項目(意思がある,反応がよい,従順である,生き物らしい)において,一対比較での判断を求めた.全体的に遅れ時間が短いほうが,生き物らしいという回答であったが,インタラクティブ性と自律性については明確ではなかった.そこで,本実験では,遅れ時間の変数の値を変えるとともに,判断に用いた項目を自律性の項目として「自ら動いている」,「意思がある」,インタラクティブ性の項目として「従順である」,「反応がよい」を用い,「生き物らしい」との関係を調べた.その結果,生き物らしさの判断は,インタラクティブ性と自律性の要因を複合した結果となった.
  • 篠田 久, 関口 理久子
    セッションID: O2B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、怒り特性の個人差が、怒りを誘発時において、認知課題、生理的指標に影響するかを探った。170名の怒り質問紙(STAXI)回答データにより、特性の高い群と低い群に分割し、高群より7名、低群より6名が実験に参加した。実験は、刺激として暗算課題、認知課題テストとしてWCST、生理指標として心拍変動、そして実験の最後にSTAXIの下位尺度ASによる質問を行った。暗算課題は、前・後半各12問題で構成し、後半に怒り誘発刺激を組み込んだ。実験後のAS平均得点に群間で有意差があり、更にASとWCSTの一部の評価項目に有意な相関が見られた。暗算課題の前半と後半のエラー数に有意差が無く、平均所要時間に有意差があったことは、怒り誘発刺激の効果を示していた。しかし、心拍変動、WCSTにおいて、群間差が全く見られなかったことは、怒り特性が認知課題にも心拍変動にも影響を及ぼさなかったと結論した。
  • 聴取者の楽器演奏経験の影響
    正田 悠, 中村 敏枝, 安田 晶子, 森 数馬, 安達 真由美
    セッションID: O2B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    正田ら(2007)は、《機械的》《芸術的》《誇張的》を意図した演奏を、一般の大学生に多次元的尺度を用いて評定させる実験を行い、《芸術的》演奏がその曲の情動的特徴をはっきりと伝達する演奏であったことを示した。これらの傾向は音楽的素養の高い聴取者とそうではない聴取者では異なると考えられる。そこで、本研究では楽器演奏経験の豊富な聴取者を音楽的素養の高い聴取者とみなし、大阪大学の学生130名を対象に行った聴取実験から、楽器経験の豊富な聴取者(41名)と楽器経験の少ない聴取者(42名)の印象評定をそれぞれ分析した。結果、楽器演奏経験に拘らず、印象評定の基本的パターンはほぼ同じであったが、正田ら(2007)で見られた、《芸術的》演奏がその曲の特徴をよりはっきりと伝達する、という傾向は、楽器演奏経験の豊富な聴取者の方でより顕著であった。
  • ―聴取者の身体反応と情動の関係性からの検討―
    安田 晶子, 中村 敏枝, 正田 悠, 森 数馬
    セッションID: O2B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    我々は様々な場面で感動を体験し、感動という言葉を耳にする。なかでも音による感動は多くの人が体験していると言われており(大出他, 2006),音楽聴取による感動は一般的な現象であると考えられる。音楽聴取時の感動は、“General characteristics” “Physical reactions and behaviours”“Perception”“Cognition”“Feelings/Emotions”“Existential and transcendental aspects”“Personal and social aspects”の7カテゴリーから構成されていると言われている(Gabrielsson他, 2003)が、各カテゴリー間の関係については明らかにされていない。そこで本研究ではこれらのうち情動と身体反応に着目し、両者の関係性を実験により定量的に検討した。
口頭発表3A:言語・コミュニケーション
  • 楠見 孝, 杉森 絵里子, 松田 憲
    セッションID: O3A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,首都圏の15-65歳の一般男女737人に対して,社会調査を実施して,懐古傾向の個人差,懐かしさを喚起するテレビCMの構成要素(昔の日本の風景,繰り返し聞いた曲など)とそれによって喚起される感情(懐かしさ,安らぎ,親しみなど)や記憶(過去の想起など),商品の記憶・好感度・購買意欲などを測定した.その結果,第1に,懐かしさの喚起には,反復接触と時間経過が重要であった.具体的には,昔何度も聞いた曲のように,過去の反復接触と,それを長い間聞いていないという,空白時間が懐かしさを喚起していた.また,これらの懐かしさ喚起傾向は,男性は加齢により上昇するが,女性は30-40代をピークに減少した.第2に,共分散構造分析の結果,個人の懐古傾向が,テレビCMからの懐かしさ喚起を高め,それが過去想起,CMや商品の記憶を促進し,広告への好意的な印象を媒介として,購買意欲に結びつくことが明らかになった.
  • 杉森 絵里子, 丹野 義彦
    セッションID: O3A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    自ら生成した言葉に関するアウトプットモニタリングについて検討をした。生成条件においては,アナグラム課題で単語を呈示し,生成させた。非生成条件においては,単語をそのまま呈示した。それぞれの条件において,単語を「発話」,「口真似」もしくは「想像」させた。その後,それぞれの単語において,「発話したかどうか」のアウトプットモニタリングを行った。その結果,生成条件は,非生成条件と比較して,発話していない単語(「口真似」,「想像」)においても,「発話した」と回答する比率が高くなることが明らかになった。つまり,自ら生成した単語は,生成しただけで,実際に発話していなくても「発話した」と答える傾向が高くなることが示唆された。発話を行為の一種と考え,行為のアウトプットモニタリング研究と関連付けて考察する。
  • 城 綾実, 細馬 宏通
    セッションID: O3A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    複数の会話参与者が同時に類似のジェスチャーを行う「同期現象」の生成過程を調べるため、互いに顔見知りである大学1回生3人1組の会話を撮影し、マイクロ分析を行った。その結果、同期はひとつのジェスチャー単位の最初から達成されるわけではなく、相手の行為をモニタリングし、行為を微細に相互調整することによって、ジェスチャーのフェーズ終点で達成されることがわかった。達成される同期がどの程度の細部をもつかによって、話題に関する知識の差が、どの程度参与者間にあるかが明らかになる。しかし知識の少ない者による同期は、単に細部の欠けた同期として終わるとは限らず、同期に欠けている要素を明らかにすることによって、他の参与者のさらなるジェスチャーを促す場合があることがわかった。
  • 松田 憲, 杉森 絵里子, 楠見 孝
    セッションID: O3A-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では懐かしさ喚起画像と広告を対呈示し,画像による広告への懐かしさ感情般化と遅延によるソース記憶の減少が広告評価に及ぼす影響についての検討を行う。実験の結果,懐かしさ感情との関連が高い食品カテゴリ(カレーやお茶など)では,対呈示画像によって喚起された懐かしさによって呈示直後の商品評価に促進効果が見られた。さらに遅延後には全体的に商品評価が上昇するという結果となった。これは,懐かしさ感情によって商品への既知性が上昇したことによると考えられる。一方で懐かしさ感情との関連が低い日用品カテゴリ(洗剤や歯磨き粉など)では,画像の懐かしさは商品評価に抑制的な効果を持った。遅延によって商品への好意度は上昇するものの,購買意図は抑制効果を持ち続ける結果となった。これらの商品は懐かしさや既知性よりもむしろ先進性が求められるために,懐かしさ画像との対呈示が購買意図への負の強化子として働いたと考えられる。
口頭発表3B:感情2
  • ―ROC曲線を用いたアプローチの提案―
    村山 航
    セッションID: O3B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    潜在的・自動的な態度を測定する方法に感情誤帰属手続き (affect misattribution procedure; AMP) があるが,この方法は参加者の意図的な反応歪曲(統制的な処理)に影響を受ける可能性があることが指摘されてきた.本研究では,データから得られた ROC 曲線に,自動処理成分,統制処理成分をパラメータとするモデルを最小二乗法によりフィットさせることで,この 2 つの過程を分離して推定する方法を提案する.具体的には,自動処理成分には信号検出モデルを,統制処理成分には高閾値モデルを仮定し,統制処理によって閾値が保守的な方向に変化するモデルを立てた.3つの実験の結果,本モデルから得られた推定値が,実験操作から想定される理論的予測と合致することが示された.また,データから得られたROC 曲線へのフィットも高く,本モデルの妥当性が示された.
  • 上野 大介, 増本 康平, 黒川 育代, 権藤 恭之, 藤田 綾子
    セッションID: O3B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    これまで個人の気分特性が顕在的記憶に影響することは報告されているが、潜在的記憶に影響するかは検討されていない。本研究では50名の高齢者を対象に記銘前と想起前の気分特性が顕在的記憶と潜在的記憶を予測するかを検討した。実験ではニュートラル単語45項目とその単語を描画し、感情を喚起する写真45項目を用いて、記銘材料の感情の種類によるネガティブ・ニュートラル・ポジティブの3条件を設定した。記銘セッションでは単語と写真を対提示し、各条件をランダムに提示した。記銘セッション後、自由再生課題と単語語幹完成課題の想起セッションを行なった。気分特性は記銘セッションと想起セッションの前に測定した。その結果、想起前のポジティブ気分特性とポジティブ条件の再生単語数に正の相関傾向がみられたが、気分特性と潜在的記憶には関連性がみられなかった。よって、潜在的記憶は自己報告による気分特性の影響を受けないことが示唆された。
  • -周辺視野と中心視野の違い-
    藤村 友美, 鈴木 直人
    セッションID: O3B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,人の視野範囲における刺激の呈示位置の違いによって,表情からの感情認識において動的情報が及ぼす影響が異なるかを検討することを目的とした。表情刺激は,次元的観点に基づいて作成した表情から快表情3種類(いきいきした,うれしい,のんびりした),不快表情3種類(恐ろしい,怒った,悲しい)を抜粋した。課題は,中心視野,左右周辺視野のいずれかの位置に呈示されるターゲット表情(動画,静止画)の感情状態を評定するものであり,第1実験では,強制選択法,第2実験では,Affect Grid (Russell, Weiss, & Mendelsohn, 1989) を用いた。結果は,強制選択法による評定では,周辺視野に呈示された怒った表情のみ,動画のほうが静止画の正答率よりも有意に高かった。Affect Gridによる評定では,周辺視野に呈示された快表情のみ,動画のほうが静止画よりも有意に快が強く評定された。
  • 青林 唯
    セッションID: O3B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    自己に関する知識は、自分についての抽象的な知識である意味的自己知識と、具体的・事象特定的な知識である自伝的自己知識がある。この両者の関係は独立であるとも関連するともいわれる。では、独立である人と依存的である人にはどのような違いがあるのだろうか。本研究では認知行動理論から、両者の連結の個人差により感情制御が予測されると仮定し、両自己知識連結の個人差を課題促進パラダイムによって測定、感情制御活動選択課題、および感情プライミング課題を感情制御指標としてこの予測を検討した。その結果、自伝的自己知識の想起により意味的自己知識が活性化される場合感情制御が促進されるのに対し、この逆に意味的自己知識の想起により自伝的自己知識が活性化される場合は感情制御効果が認められなかった。これらの結果から、自己知識の連結が感情制御効果をもつこと、および連結の方向性によってその効果が異なることが示唆された。
口頭発表4A:学習・推論
  • 松香 敏彦
    セッションID: O4A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    High-order human cognition involves processing of abstract and categorically represented knowledge. Although it has been conventionally assumed that there is a single innate representation system in our mind, we view, on the basis of recent empirical and simulation studies, the representational system as a dynamic mechanism, capable of selecting a representation scheme that meets situational characteristics. The present paper introduces a framework for a cognitive model that integrates robust and flexible internal representation machinery. Our modeling framework flexibly learns to adjust its internal knowledge representation scheme using a meta-heuristic optimization method. Three simulation studies were conducted. The results showed that SUPERSET, our new model, successfully exhibited cognitive behaviors that are consistent with three main theories of the human internal representation system. Furthermore, a simulation study on social cognitive behaviors showed that the model was capable acquiring knowledge with high commonality, even for a category structure with numerous valid conceptualizations.
  • 中村 國則
    セッションID: O4A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    思考・推論の研究でしばしば用いられているWasonの4枚カード問題を、項目反応理論を用いて分析した。323名の私立大学学生が直説法課題2題、義務論的課題3題、非義務論的課題1題の計6題の4枚カード問題に対して回答した。被験者の回答は各課題ごとに正答・誤答のどちらかに分類され、データはテトラコリック相関に基づいた因子分析、及び2母数ロジスティックモデルを用いて分析した。分析の結果、1因子構造が確認され、かつ直説法課題・義務論課題では困難度母数は異なるものの、識別力母数はほぼ同等であることが明らかになった。
  • 知識量からの心的過程に関する考察
    本田 秀仁, 阿部 慶賀, 山岸 侯彦
    セッションID: O4A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    近年、G. Gigerenzerらを中心とする研究グループが、我々は再認ヒューリスティック(以下RH)という推論ストラテジーを用いて環境構造に適応的な推論を行っていることを示している。RHは、一般的には、“2つの対象のうち、一方を知っていて、もう一方を知らない場合、知っている対象が推論基準において高い値を持っていると推論しよう”と記述される。この記述からも分かるように、RHは対象を2つとも再認できた場合は使用できず、この場合、我々は知識に基づいて推論をする必要があるとGigerenzerらは主張しており、RHに基づく推論との違いが指摘されている。しかしながら、この点についてこれまで実証的に検討がされてこなかった。そこで本研究では、対象への知識を先行研究のようにカテゴリカル(再認、不再認)ではなく、量的(知識量)に捉えた上で、2つの推論の心的過程について議論を行う。
  • タラセンコ セルゲイ, 乾 敏郎, アブディケェヴ ニヤズ
    セッションID: O4A-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    This study investigates how stimulus complexity influences human learning of a Sequence Learning (SL). A usual approach to analysis of learning data is based on a learning curve (LC), which shows how a probability of correct response on each step changes across an SL. Usually, a single logistic curve (LgC) provides a good approximation of LCs under various conditions. However, our results show that increase in complexity of a stimulus causes usage of more than one LgC for approximation. In the case of high complexity, LgC curve no longer describes a learning dynamics, but only its general trend. We also extracted other functions needed to approximate a learning dynamics under high complexity. Furthermore, to approximate learning dynamics under higher complexity, we have to use the functions employed under the lower complexity conditions and some additional functions. Therefore we hypothesize a hierarchical structure of the learning process related with stimulus complexity.
  • 増田 尚史
    セッションID: O4A-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,大学生にとって身近な課題であるレポート作成を題材として,課題の遂行が当初のプランより遅延される計画錯誤と,個人特性としての時間選好率との関連性を検討することを目的に,質問紙法による調査を実施した.その結果,(1)時間選好率の高い群(将来よりも現時点での収入・消費を好む傾向の高い人たち)と低い群の間に,プランニング段階でのレポート着手予定日には有意な差異は認められないが,(2)実際のレポート着手日については時間選好率高群の方が遅い傾向にあり,(3)結果的に,高群の計画錯誤量が有意に大きいことが確認された.これらのことは,時間選好によって表現されうる,現在を重視し未来を軽視する個人特性が,プランニングされた行動の先延ばし傾向に影響を及ぼしている可能性を示唆する.
口頭発表4B:身体・運動1
  • - 身体-外部座標対応づけ機能による検討 -
    永井 聖剛, 西崎 友規子, 時津 裕子, 河原 純一郎, 熊田 孝恒
    セッションID: O4B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    自動車の運転が得意な人と不得意な人の違いは何に起因するのか?本研究では、運転行動の基盤となりうる認知機能を測定する課題を開発し、それらの成績から特定の場面での個人の運転行動・傾向を推定することを目標とした。特に本発表では、身体座標と外部座標との対応づけ能力を調べる「左右反転ポインタ操作」課題の成績と運転行動の関連について報告する。被験者を座標対応づけ課題の成績(高/低)と運転頻度(多/少)に基づき4つの群に分け、直線後進、S字路後進、前進/後進車庫入れ等の実車運転行動を調べた。運転頻度が同じでも、課題成績高群は低群より、S字路後進、後進車庫入れ等において、完了時間、脱輪回数、正確さの指標で高い成績を示した。従って、課題で測定された身体―外部座標対応づけ能力は、運転行動と密接に関連し、たとえ運転頻度が高くても、その能力の違いが特定の状況での運転行動に反映されることがわかった。
  • 竹村 尚大, 乾 敏郎, 福井 隆雄
    セッションID: O4B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    これまで、我々は到達把持運動の把持成分および到達運動について、予測精度に基づいた制御モデルを提案してきた。把持成分の制御モデルでは、実験で観察された到達成分における物体までの残りの距離に応じて到達位置の予測精度が変化し、把持成分に影響を与えるという単純なものであった。一方、到達運動のモデルでは、速度プロフィールの決定に将来のフィードバックも考慮した精度予測が関与していることを示した。本研究では、このような将来のフィードバックも考慮した予測精度が、到達把持運動の把持成分の制御に影響を与える到達成分においても機能しているのではないかと考え、把持成分と到達成分を統合する到達把持運動の制御モデルを提案する。このモデルは、どのようなフィードバックが帰ってくるかについての予測(期待)が到達把持運動制御に与える影響をシミュレートすることができる。
  • -角の誤形成-
    永井 知代子, 乾 敏郎, 岩田 誠
    セッションID: O4B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    Williams症候群は視空間認知障害が著しい発達障害として知られ,図形のトレースは可能だが模写が不良で特に角の誤形成が特徴だとされる(永井2001).この原因を探るため,正四角形・菱形・正五角形・正六角形・凹を含む多角形を見本図形として, (1)1ストロークずつ見本図形を呈示して横に逐次模写 (2)見本図形を0.5, 2, 5s間呈示してトレース (3)見本図形と描画空間の奥行き距離を0(=トレース),5(トレースも模写も可能),10(=模写)cmに変えて模写する課題を施行した. その結果,(1)からは角を多く含む図形ほど描画後半に誤りが多く,(2)からは呈示時間によらず再生できる図形の角の数は3-4個と限られることが示され,visual indexing障害の表れと考えられた.また(3)からは距離5cmの条件下では見本図形(対象)に依存せずに自己運動に依存する傾向がみられ,対象中心より自己中心座標に依存する傾向が示唆された.以上の特徴が角の誤形成の原因をなしていると考えられた.
  • 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: O4B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    過去の神経心理学研究から,描画における「なぞり」と「模写」との乖離が知られている.例えば頭頂葉損傷をともなう構成障害の患者では,見本図形の模写ができず,代わりに図形の上をなぞってしまう “closing-in”現象が見られる.そこで本研究は,なぞりと模写における神経基盤の違いをfMRIで検討した.実験では,ランダムな形状の曲線を見本として呈示した後,実験協力者はマウスカーソルを使って見本の上をなぞるか,別の場所に模写した.さらに描画の際,見本の視覚がある場合とない場合を設けた.結果から,両側の頭頂間溝では模写でなぞりより高い活動が見られ,さらに見本の視覚がない場合には左頭頂間溝で活動増加が見られた.対して両側運動前野では,視覚ありのなぞり以外の条件で活動増加が見られた.本研究から,模写で必要となる見本から自己中心座標への変換に頭頂間溝が,描画軌道の生成に運動前野が関わる点が示唆された.
  • 乾 敏郎, 小川 健二
    セッションID: O4B-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    なぞりと模写のfMRI実験の結果から、これらのメカニズムに関するモデルを提案し、動作模倣との関連性についても考察する。乾(2007)では、左頭頂葉と右頭頂葉において、対象が自己中心座標と対象中心(または環境中心)座標でそれぞれ表現されていると仮定している。言い換えると、左頭頂葉は、主に外界の時空間的な変化を身体運動に変換するという意味で、情報の流れが「他者→自己」であり、右頭頂葉は自己の運動を他者(物体)に投影して、外界にある他者(物体)のイメージを作り、操作するという意味で、情報の流れは「自己→他者」であると言える。なぞりは、対象中心座標の表現のみでカーソルの軌道を制御できるのに対し、模写は、曲線を一旦自己中心表現に変換して再生しなければならない。しかも、自己中心座標と対象中心座標の変換を行い、部分の確認がなされる必要がある。このモデルによって、closing-in現象も説明可能である。
口頭発表5A:記憶2
  • 成本 忠正
    セッションID: O5A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,視覚情報 (encoded as presented) および視覚イメージ (mentally generated) の能動保持が作業記憶システムのいずれのコンポネント機能かを検討した.Baddeley & Logie (1999; Logie, 1995) は,作業記憶システムのvisual cacheで貯蔵されている視覚情報はinner scribeによりリハーサル維持 (つまり,能動保持) されると仮定している.他方,成本 (submitted; Pearson et al., 2001) は,心的に生成された視覚イメージはCEにより能動保持される結果を報告している.本実験の結果,視覚情報の能動保持はvisual cacheの機能であり,よってvisual cacheは単純な受動的なコンポーネントではなく,能動的なコンポーネントであることが示された.他方,生成された視覚イメージの能動保持はCEの機能であることを示した.これらの結果により,視覚情報と生成イメージは同じ視覚表象ではあるが,その能動保持にはそれぞれ異なるコンポーネントが機能していると考えられる.
  • 堀田 千絵, 川口 潤
    セッションID: O5A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    忘れたい過去の記憶の検索を意図的に抑止することがその後の再生成績を低下させることが知られている。本研究は、忘れたい過去の記憶から単に注意をそらすということが、検索を意図的に抑止した時と同じタイプの忘却を示すのかどうかを検討した。この問題はThink/No-Think課題(Amderson & Green, 2001)を修正した形で検討された。すなわち、意図的抑止するかわりに、忘れたい過去の記憶の想起を妨害する手続きを設定した。その結果、意図的抑止、注意妨害条件両者で直後の記憶テストでは忘却の効果が認められたが、20分後の成績では注意妨害条件のみで忘却の効果が消失した。これらの結果は、少なくとも意図的に忘れたい過去の記憶を検索することが長期忘却に必要であることを示唆している。
  • 山田 陽平, 月元 敬, 川口 潤
    セッションID: O5A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    検索誘導性忘却とは,事前に記憶内のある情報だけを思い出すことによって,後に関連する情報が思い出しにくくなる現象である (Anderson, 2003)。本研究では,検索経験として事前に行う手がかり再生テストを再認テストに代えて,検索誘導性忘却が生じるのかどうかを検討した。山田・月元・川口 (2007, 日心) は強制選択再認テストによる検索誘導性忘却を確認しており,ディストラクタによる干渉の影響であることが示唆されている。しかしながら,ターゲットとディストラクタの対呈示による選択プロセスが何らかの影響を及ぼしていたのかもしれない。そこで,本研究ではYes-No再認テストを用いて,検索誘導性忘却が認められるのか否かを検討した。その結果,検索誘導性忘却が認められた。これは,強制選択による選択プロセスの関与を棄却するものであり,再認テストによる検索誘導性忘却はディストラクタによる干渉効果であると考えられる。
  • 野内 類, 兵藤 宗吉
    セッションID: O5A-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、過去の出来事を検索することと将来の出来事を想像することの類似性を課題促進パラダイム(Klein, Loftus, & Burton, 1989)を用いて検討した。実験1は、18名の参加者が、自伝想起課題と将来エピソード生成課題と意味処理課題からなる先行課題とターゲット課題を行った。実験2は、18名の大学生が自伝想起課題と将来エピソード生成課題と自己記述課題からなる先行課題とターゲット課題を行った。その結果、将来エピソード生成課題がターゲットの場合、先行課題が自伝想起課題と将来エピソード生成課題の場合に意味処理課題よりも反応時間が促進された(実験1)、さらに先行課題が自伝想起課題と将来エピソード生成課題の場合に自己記述理課題よりも反応時間が促進された(実験2)。これらの結果は、過去の出来事を検索することと将来の出来事を想像することが部分的に類似していることを示した。
口頭発表5B:身体・運動2
  • 伊藤 万利子, 三嶋 博之, 佐々木 正人
    セッションID: O5B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、急速な運動における知覚と行為の調整を検討する目的で、けんだま遊びの技のひとつである「ふりけん」の分析をした。ふりけんとは、利き手でけんをもち、前に振り出した玉を返しながら、玉の穴をけん先でさす技である。この技は約一秒で完結し、正確さが必要とされる。 実験では、200試行のふりけん動作を三次元動作計測装置で記録し、玉と、けんをもつ手の動きを分析した。その結果、実験参加者は、玉を振り出した直後から玉の動きに合わせてけんをもつ手の速さを変化させていた。 特に、前に振り出した玉を返すという行為については、玉が一定の位置にあるときにそのタイミング合わせにおける手の速さが最大になっていた。 これらから、ふりけんにおいては、玉の動きという視覚的な情報を利用して手の動きが調整されており、したがって急速な運動であっても、環境情報を利用して行為の調整が行われていることが明らかとなった。
  • 浅井 智久, 丹野 義彦
    セッションID: O5B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    Previous studies have suggested that the left and right hands have different internal models for motor control. Thus, rather than one hand being superior to the other, each might have different specialties. If so, bimanual movements might be more accurately controlled because of the coordination of the two internal models. To investigate this possibility, we examined motor movement accuracy, reaction time, and movement time in pure right-handed subjects during a three-dimensional motor control task (visually guided reaching) under conditions of visual feedback and no visual feedback. In the no-visual-feedback condition, right-hand movement had lower accuracy and shorter reaction time than did left-hand movement, whereas bimanual movement had the longest reaction time, but the best accuracy. This suggests that the two hands have different internal models and specialties: closed-loop control for the right hand and open-loop control for the left hand. Thus, during bimanual movements, both models might be used, creating better control and planning (or prediction), but requiring more computation time compared to the use of only one hand.
  • 鈴木 裕輔, 本間 元康, 小山 慎一, 長田 佳久
    セッションID: O5B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    ラバーハンドイリュージョンとは、隠された参加者自身の手と、目の前に置かれたラバーハンド(ゴムの手)が同時にタップされたときに、参加者が自身の手ではなくラバーハンド上に触感覚を感じる現象である。通常では一本のラバーハンドが使用されるが、今回我々は参加者の1本の右腕に対して2本の右手ラバーハンドを提示したとき、どのようなイリュージョンが生じるか検討した。実験では2つの右手ラバーハンドそれぞれの薬指と隠された参加者の右手薬指(合計3カ所)を同時にタップし、「触感覚(物理的圧力の感覚)」と「自己受容感覚(身体部位の位置感覚)」についてそれぞれ定位数を測定した。ラバーハンドが2本の場合では触感覚の定位数は増加したが自己受容感覚の定位数は変わらなかった。これらの結果から、自己受容感覚に基づく定位は視覚情報(ラバーハンドの数)に依存しないが、触感覚に基づく定位は視覚情報に依存していることが示唆された。
  • 田中 茂樹, 乾 敏郎, 小川 健二, 中村 太戯留
    セッションID: O5B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    今回我々はBlankeら(2003)がEEGによる研究で使用した課題を用いてfMRI実験を行った。embodiment(身体化)とdisembodiment(脱身体化)の比較を目的とし、視点が自己身体の内にある状況(身体化条件)と外にある状況(脱身体化条件)のそれぞれの脳活動をfMRIを用いて調べた。課題では左右いずれかの手が黒く表示された人間の線画を提示した。被験者はその線画が、自己を直接見ているか(脱身体化条件)、もしくは鏡で見ている(身体化条件)とイメージし、黒く表示された手は自分身体では左右いずれに当たるか判断した。脱身体化条件では被験者は自己の身体の外からの視点からのイメージを用いることになる。解析の結果から、脱身体化条件において身体イメージの視覚情報処理に関与するとされるEBA(extrastriate body area)や左右頭頂葉においてより顕著な活動上昇が観察された。
ポスター発表1:記憶
  • 酒井 徹也, 漁田 俊子, 漁田 武雄
    セッションID: P1-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    記銘項目を複数個同時提示したとき,背景色の変化が背景色文脈効果におよぼす影響を調べた。背景色変化(ランダム vs. 単純交替: 参加者間)×文脈(同文脈 vs. 異文脈: 参加者内)の2要因計画を用い,46名の大学生をランダムに,上記の参加者間要因に割り当てた。大学生は個別に実験参加し,3項目×10画面(12秒/画面)の計30項目を意図学習した。薄赤 – 薄緑,薄青 – 薄黄のいずれかの背景色対を参加者ごとにランダムに割り当てた。背景色の変化は,ランダム条件ではA-BAABABBA-Bとし,単純交替条件ではA-BABABABA-Bとした。学習後,30秒間の計算課題を挿入した。つづいて学習時に用いた背景色のうちいずれかのもとで,口頭自由再生を行わせた。実験の結果,いずれの背景色変化条件においても,背景色文脈効果が生じた。また,画面にもとづく群化が生じたが,背景色にもとづく群化は生じなかった。
  • FURUTANI DE OLIVEIRA Mirian Akiko, 酒井 徹也, 漁田 俊子, 漁田 武雄
    セッションID: P1-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    Nineteen undergraduates individually learned a list containing 30 words subdivided in two distinct categories (birds and cities). Triads of respective 15 words within the categories were visually presented against the one of two background colors (BGCs), which were presented in a random order. After 30-sec filled retention interval, the participants were presented one of the BGCs shown at encoding, and then orally free recalled the words. There was no significant difference in recall between the condition in which the color presented at study and test was the same and that in which the colors at study and test were different. The ARC score was calculated to analyze the clustering by screens and BGCs. The clustering by colors was significant but not for the clustering by screens. The present results suggest that semantic relationship among words suppressed BGC context-dependent recall and enhanced clustering by colors but not that by screens.
  • 山田 恭子, 中條 和光
    セッションID: P1-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    環境的文脈依存効果は,符号化時と検索時の環境的文脈が一致すると,不一致の場合よりも記憶成績がよくなる現象である。この現象は,記銘項目自体やその一部が再呈示されると観察されない(アウトシャイン仮説)とされている(Smith, 1988)。そこで,記銘項目のフラグマントを検索手がかりとして再呈示する手がかり再生課題において,環境的文脈依存効果の生起に及ぼす遅延期間の影響を検証した。視覚呈示した単語の音読を求める課題によって符号化を行わせた後,手がかり再生課題を行った。課題までの遅延期間は,実験1では約1週間,実験2では約10分間とした。環境的文脈はニオイによって操作し,文脈一致条件でのみ符号化時と検索時で同じニオイを呈示した。その結果,1週間の遅延でのみ,環境的文脈依存効果が生じた。長い遅延によって記銘項目の視覚的特徴の表象が減衰し,検索手がかりとしての環境的文脈の有効性が高まったと考えられる。
  • 池田 和浩, 仁平 義明
    セッションID: P1-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,ポジティブな転換的語り直しとネガティブな転換的語り直しが,その後の参加者の記憶に与える影響の差異を検討した。ポジティブな転換的語り直し群の大学生(N=12)は,物語の内容を“楽しかったこと”として語り直した。ネガティブな転換的語り直し群(N=12)は,物語の内容を“辛かったこと”として語り直した。統制群である正確再生群(N=12)は,自己の経験をそのまま繰り返し語った。この転換的な語り直しの前後で,物語に関する記憶が比較された。また,語り直し段階の記憶全体に対する主観的な感情価と,再生段階の感情価を評定した。その結果,転換的語り直しは,オリジナルの記憶の全体に対する主観的な評価を変化させるだけでなく,語りの中に現れる記憶の中の感情も変化させた。さらに,転換的語り直しは,語り直しに沿わない感情価や感情表現を抑制した。転換的語り直しのタイプの差異は,語り手の記憶を異なった方向へと変容させる効果を持つと考えられる。
  • 木暮 照正
    セッションID: P1-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    過去に実際に起きた社会的できごとの生起時期を尋ねると,一般的には,実際よりも現在にやや近づいて推定されることが多い(テレスコープ効果)。従来この現象は「何年何月頃に起きたか?」「何年前に起きたか?」と質問することで検討されてきたが,本報告では,「小学校卒業時点から『何年後』に起きたか?」と問う条件群を加えることで,その想起の方向性を操作し検討を行った。じっくりと考えた上で判断を下しやすいと考えられる熟慮傾向者ではこの想起の方向性は生起時期推定の錯誤傾向には影響を及ぼさなかった。これに対して,即座に判断を下しやすいと考えられる衝動傾向者では「小学校卒業」を起点として生起時期推定を行う条件においてテレスコープ効果の程度が増大した。衝動傾向者は「小学校卒業」という時間的目印を強く意識し,それよりも敢えて離して回答しようとする可能性(結果として現在に近づいた回答となる)が考えられる。
  • 中田 英利子
    セッションID: P1-06
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    言語ラベルあるいは絵刺激を視覚提示(あるいは視覚イメージ)により記銘させた後、言語ラベルあるいは絵刺激を視覚提示するか、視覚イメージさせながらソース(“見た”、“視覚イメージをした”、“新項目”)を判断するよう求めた。
  • 中山 友則, 兵藤 宗吉
    セッションID: P1-07
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    事後情報効果パラダイムとは,出来事の呈示,事後情報の呈示,記憶テストの3段階からなるパラダイムである。本研究では通常の事後情報効果パラダイムで実験が進む統制条件に加え,事後情報後の挿入再認テストにおいて,出来事で呈示された項目を強制的に選択する条件,事後情報で呈示された誤情報を強制的に選択する条件を設け,挿入テストでの再認がソースモニタリングに及ぼす影響を検討した。その結果,出来事で呈示された情報を再認した場合,全体的な記憶成績は落ちる傾向にあったものの,誤情報を見たと判断するエラーの増加にはつながらなかった。一方,誤情報を再認した場合,全体的な記憶成績は統制条件と変わらないものの,誤情報を見たとするエラーが増加するという結果になった。これらの結果は,事後情報後に呈示された項目や,その項目への判断によってソースモニタリングに及ぼす影響が異なることを示していると考えられる。
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