抄録
近年,ワーキングメモリ(以下,WM)容量課題での高得点群(以下,HSS群)が低得点群(LSS群)に比し,注意課題や言語課題といった認知機能の制御に優れている事を示す研究が多く発表されている.中でもColfleshら(2007)は,両耳異聴課題を用いた研究に基づき,HSS群は聴覚情報においても注意制御に優れていると述べている.しかしWM容量と聴覚意味処理能力の関係については明らかにされていない.本研究では,有意味語と無意味音節の2条件を用い,両耳異聴課題にてWM容量と聴覚情報の注意制御および意味処理の関係を検討した.結果,HSS群は無意味音節条件のターゲット語への反応時間(RT)がLSS群に比し有意に速く,有意味語条件より無意味音節条件のRTが有意に速かった.この結果から,HSS群が認知機能の制御に優れているという先行研究が示唆され,更にWM容量の個人差と聴覚情報における意味的処理能力の関連性についても考察した.