抄録
本実験では,行為文の理解において,道具の使用経験が知覚的表象を活性化させるかを検討した.42名の参加者は単純な動作によって特定方向の動きが喚起されるような文を読んだあとに,異なる位置に提示された2つの線画刺激の異同判断を行った.このとき,提示文の半分は読み手が使ったことがある道具を用いた行為文(使用経験あり条件),残りの半分は使ったことがない道具を用いた行為文(使用経験なし条件)であった。異同判断の結果,使用経験あり条件では,説明された動きと一致する動きの視覚刺激(一致条件)の方が,一致しない動きの視覚刺激(不一致条件)よりも反応時間が有意に短いことが示された.しかし,使用経験なし条件では,一致条件と不一致条件で反応時間に差はみられなかった。これらの結果から,文に含まれる対象物に関する経験が,その文を読んだ時に起こる知覚的表象の活性化に影響している可能性が示唆された。